第62話 悪魔が語る事実

「――話し合う前に、部外者にはご退場してもらいましょうか」



 黒兎の魂を具現化させた宝玉を咥えたまま、悪魔のビルは魔法を行使した。学校周辺に展開された結界の性質が変化する。術者が許可していない魔法の使用を制限する類のものに。



「■■■■……!?」



 その効果で悟が召喚していたジャバウォックやトランプ兵達の実体化を、強制的に解除される。バフォメットにあれだけの優位に立っていたジャバウォックですら、あっさりと無力化されてしまった。



(こんな一瞬で簡単に……!)



 咄嗟に悟はトランプ兵を再度呼び出そうとするが、魔法が発動する様子は見られない。

 悟はビルに対する警戒度を限界まで引き上げる。と言っても、『召喚系』の魔法の担い手に分類される悟では、使い魔が無力化された今、できることはないのだが。



「君の使い魔達は少々厄介ですからね。さっきまでいた竜や女性に、君に似た女の子。私でも相手をしたくないですよ」



 厳しい視線を向ける悟に対して、ビルはやれやれといった感じで呟く。悟が見た限り、冗談や誇張でもないようだ。

 悟が使役する使い魔を酷く危険視していることが分かる。そしてビルの発言に違和感を抱く。メフィストには見えなかった久留美の姿を視認できているということを。



 僅かな態度の変化に気づいたビルは、その内容を察して当然のように答えた。



「――ああ。確かに君に似た少女はメフィストには見えていませんでしたね。それでも別に彼女の能力が低かった訳ではないんですよ? 私が見てきた魔法少女や『魔女』の中では一番実力も高く、愚かで愉快な人形でしたよ?」



 その発言に不快さを隠さない悟。ビルの語る内容からは、自分の契約者であったメフィストの心配は読み取れることはなかった。そこに込められているのは、単純な感情。気に入っていた玩具の一つが壊れてしまった。その程度のものでしかなかい。



「……自分の契約者に随分な物言いだね。あの主人にピッタリの契約悪魔だよ」

「貴女の方こそ。大変悍ましい者を飼っていますのに。貴女が魔法少女になったのは、あの少女が原因でしょうか? 随分と大切に思われているようで。愛情程恐ろしいものはありませんねぇ。全く……」



 悟の皮肉に動じた様子も見せず、ビルは己の推測を混じえながら久留美の正体に迫ろうとした。何故メフィストには見えず、ビルには久留美の姿が見えていたのか。

 その理由は不明であるが、ビルの予想は悟にも有益なものでもあり、今のような状況でなければ最後まで聞きたいと悟は考えてしまう。



 そんな悟の思考を無視するように、ビルは話題を切り替える。



「――それで貴女さえよければ、私と契約してもらえませんか? それほどの実力。黒兎の下で腐らせるには惜しい」

「……そこで伸びている主人のことは無視していいの?」

「彼女に関してはもう用済みですので、問題ありません。さっさと本題に入りましょう。黒兎の目的は知っているのでしょう?」

「……魔獣の根絶。原因である『聖女』の排除。そう聞いてるけど」

「なるほど、なるほど。そのように伝えているのですね」



 自身の主人であるはずのメフィストには最早興味もないといった様子で、ビルは言葉を続ける。



「――私の目的も魔獣の根絶に近いのですよ」

「何を根拠に信じろと?」

「……中々難しいですね。そう言えば、これは存じ上げていないご様子ですので、伝えておきましょう。――件の『聖女』ですが、私と黒兎は彼女に恩義がありましてね。彼女の救済。それが私の望みになります」



 ビルから語られる内容は、悟でも知らない黒兎の過去であった。未だに知らされていない事実があることにショックを受けつつも、悟は黒兎とビルで願いの方向性が違うことに気づき問いただす。



「――『聖女』の救済。それ以外のものはどうなってもいい。君はそう考えてるんでしょ? 黒兎とは違って」



 悟からの指摘に、ビルは当然と言わんばかりに宣言した。



「――ええ、もちろんですとも。その為に私はこの身を悪魔に堕として、彼女に集る妖精共に嫌がらせも兼ねて『魔女』を量産してきたんですよ」

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