第60話 狂った帽子屋
「■■■■ッ――!」
「Gaaaa!」
紫色の異形の竜が、山羊頭の悪魔が。咆哮を上げてぶつかり合った。単純な力押しはジャバウォックに軍配が上がり、バフォメットは早々に距離をとろうとする。
しかしそれを許すジャバウォックではない。離れた分の距離を巨体に見合わない素早さで、すぐさま詰める。
「■■■■――ッ!」
「Gaaaa……!」
それから展開されるのは、先ほど同じ取っ組み合い。ジャバウォックとバフォメット。純粋な規格性能は、どちらも大した差はないだろう。
むしろ回復能力を備えたジャバウォックの方が有利である。それでもジャバウォックが、バフォメットを倒すのには時間がかかってしまう。
しかしそれが意味することは、メフィストにとっての奥の手が封じ込められていることになる。
バフォメットは、このままジャバウォックに任せれば問題ない。そう判断をした悟は、戦闘の余波に巻き込まれないように、一歩ずつメフィストに近づいていく。
悠然と歩みを進める悟の姿に、それまでの余裕の態度をかなぐり捨てたメフィストは、頭を掻きむしり大声を上げる。
「く、来るな……! 『堕落への誘い』ッ!」
「――だから、さっきので分かってるだろう? 僕に君の洗脳魔法は通用しないって」
咄嗟に行使されるメフィスト十八番の洗脳魔法。しかし効いた様子は全く見せず、悟は魔法を使用した。
「――『■■の国の■王・トランプ兵』」
悟の影からトランプ兵が無数に現れる。幾人もの犠牲者を出した『魔女』の首を刎ねる為に。
「来ないでよ……!」
「――僕は君を許さない。一度地獄から抜け出したエリザに手を汚させようとしたことを。僕の大切な人達がいる場所に襲いかかったことを」
無情に告げる悟。それに対してメフィストは万策が尽きていた。魔法も通じず、頼みの綱のバフォメットはジャバウォックに足止めをされている。
「嫌だ……嫌だ……。私はまだ死にたくない……! まだ……あの子を……!」
「――じゃあね、メフィスト。これで終わりしてあげる」
「――バフォメットッ!」
死刑宣告に抗う囚人のように、メフィストは大声で助けた。その声を聞いたバフォメットは主人を助ける為に、目の前にいたジャバウォックを振り切り、無防備な悟の背中にその拳を振り下ろした。
意識外からの攻撃で、トランプ兵による防御は不可能。ジャバウォックも突破を許してしまい、悟を庇うののは間に合いそうにない。
「――油断は禁物だよ。兄君殿」
「Gaaaa!?」
バフォメットの不意打ちの一撃は、新たな乱入者によって妨害された。その乱入者の正体は、道化風の服に身を包む長身や女性であった。頭に被る異様にデカい帽子によって、女性の纏う異様な雰囲気をより増していた。
「えっと……誰でしょうか?」
「おやおや……忘れるとは酷いね。何回かは顔を合わせていると思うけどね」
戯けた様子で言う女性。まるで何事もないかのように振る舞っているが、あのバフォメットの攻撃を片手で防いでいる。
バフォメットは突然の乱入者に空いた手で追撃を繰り出すも、簡単にいなされてしまう。
「Gaaaaッ!?」
「バフォメットッ!?」
その後バフォメットの後ろに回り込んだ女性は、軽やかな手さばきでバフォメットをメフィストの方に投げ飛ばした。
「――私は今兄君と会話しているんだ。邪魔をしないでくれないかい?」
手についた埃を払いながら、女性はバフォメットが飛ばされた方向に冷たい視線を向けていた。
「もしかして、君は……」
悟は感覚的にその正体を理解した。よくよく冷静になって観察すれば、女性と悟との間には、トランプ兵やジャバウォックとの間に存在する魔力の経路が存在していた。
つまり、この女性も『■■の国の■王』によって生み出された使い魔の一体ということになる。
「……そう言えば、こちらの姿で会うのは初めてでしたね。改めて自己紹介を。私の名はマッドハッター。またの名を『帽子屋』と申します。どうぞ、今後ともよろしくお願いします。兄君殿?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます