第58話 vs『魔女』メフィスト③

「あはは、凄い! 凄い! 私の連れてきた魔獣が全滅しちゃった。黒アリスちゃんも頑張るわね」



 メフィストは無邪気な子供のように、感嘆の声を上げた。



 二人の『魔女』が戦闘を開始して、十数分が経過していた。大量の魔獣の出現。生徒達の悲鳴。教師陣が発信した外部への救援連絡。

 通常であればとっくに異常を察知した『連盟』から魔法少女が派遣されていたであろうが、学校を取り囲むように展開された結界魔法。もちろん結界を張ったのは黒兎ではない。メフィストか、契約悪魔であるビルのどちらかあると、悟は推測していた。

 その予想が正しければ、両者を打倒しなければ『連盟』からの増援や横槍すら期待できない。



 トランプ兵の指揮を取り、順調に魔獣を処理していった悟。とは言っても、トランプ兵の耐久性はそれほど高いものではない。

 複数の魔獣の猛攻に晒されていく内に、その数は減少していった。悟は戦線が崩壊しないように、減った傍からトランプ兵を追加召喚。数の利を活かして、ギリギリの所で魔獣との戦闘を終始圧倒していた。



「はあ……はあ……。これで最後……!」



 悟の指示によって、蠍型の魔獣の死角から剣を装備したトランプ兵が近寄り、魔獣の脳天に剣を突き立てた。



「Gyaaaaーー!?」



 蠍型の魔獣から絶叫が上がり、剣を突き立てたトランプ兵をふるい落とし、その後動かなくなった。最後に残った魔獣の体が魔力に還元されていく。



 悟はその様子には目もくれず、残ったトランプ兵に指示を念話で送り、メフィストにいつでも攻撃を仕掛けられるようにしておく。

 チェシャ猫の方も魔獣を倒し終わったようで、術者である悟の傍に駆けて来る。これで現状悟が用意できる戦力が集結した。

 先ほどまでの魔獣達の戦闘で、悟の保有魔力は三分の一程削れているが、戦闘の続行には支障はない。



(黒兎の方も気になるけど、今はメフィストに集中しないと……!)



「あらあら。そんなに熱い視線を向けられると、私も困っちゃうわ。まあ、私が連れてきた魔獣を全部倒せたみたいだし、ご褒美もあげないとね」



 悟が魔獣軍団を相手に激戦を繰り広げていた間、笑みを浮かべながら静観をしていたメフィスト。手持ち魔獣が全滅しても、表情を崩そうとしない。



「ふふふ。この子を見せるのは、貴女が久しぶりよ。――『悪魔召喚・バフォメット』」



 メフィストの纏う魔力が上昇して、一つの魔法が行使された。メフィストの背後に巨大な門が出現する。重々しい音を立てて、扉が開き内側にいた『何か』が姿を現した。



「Gaaaa……!」



 門の内側から来訪したのは、一体の悪魔であった。二メートルにもなる巨体。人間に近い体を持ちながら、決定的に異なる角が特徴的な山羊頭。

 精神操作系の魔法を普段使いするメフィスト。そんな彼女が奥の手とする魔法『悪魔召喚・バフォメット』。



 その魔法によって呼びされた使い魔は、『討伐難易度』A級の魔獣に匹敵する。悟の直感が告げる。この使い魔は『強化召喚』を行っていないチェシャ猫よりも強いと。



(ま、不味いかも……。今の戦力――チェシャ猫とトランプ兵達だけじゃ勝てない……。仕方がない……もうこうなったら……!)



 黒兎が敵方の契約悪魔と戦闘をしている状況では、勝利の天秤はメフィストの方に傾いてしまう。悟は決心した。できるだけ切りたくなかった『手札』――調伏していない使い魔の強制召喚を行うことを。



「――チェシャ猫。何とかして時間を稼いでくれる?」

「Nyaaaa!」



 悟はチェシャ猫の足元に寄り添い、作戦とも言えない無理難題を告げた。それに対してチェシャ猫は嫌な顔をせず――ぬいぐるみを模した彼? から表情を読み取るのは不可能だが――元気よく鳴き声を上げた。



(さっきの発言を信じるなら、メフィスト自身に碌な攻撃手段を持ち合わせていない。トランプ兵も動員すれば、強制召喚を行う時間ぐらいは稼げるはず……!)



「――相談事は終わった? じゃあ、よろしくね。バフォメット」

「Gaaaa……!」



 もう待ち切れないといった様子のメフィストは、己の使い魔であるバフォメットに攻撃命令を下す。



「Nyaaaa!」



 それに呼応するように、チェシャ猫は鳴き声を上げて、バフォメットに突撃を行う。



(少しでも急がないと……!)



 悟はトランプ兵達にチェシャ猫のサポートをするように指示を出し、強制召喚の準備に入った。

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