『神代国家日ノ本奇譚』より「大手SNSの青い鳥、日ノ本人に愛され電子の付喪神と化し、新CEOに抗う事の由」

ふとんねこ

大手SNSの青い鳥、日ノ本人に愛され電子の付喪神と化し、新CEOに抗う事の由


 先進国筆頭たるアメリカ合衆国、世界中の経済に関わる大企業たちの間で、まことしやかに囁かれる噂がある。


 科学技術の発展目覚ましいこの現代に、未だ神々の息吹を轟かす特異な神代国家、日ノ本の民に自社製品が愛されるとそこにスピリットが宿る。


 神などとっくの昔に現世を去り、信仰は残れど実在は確かめられぬアメリカ合衆国の人々にとってはファンタジックすぎて、にわかには信じ難い奇跡の具現。

 しかし、信じてみたいと心が踊らずにはいられない。信仰とは、人類が生まれ出でてより皆必ず抱いてきた感情。圧倒的強者への憧れと祈りは、もはや本能と言えそうな情動だ。


 そういうわけで、多くの大企業が素知らぬ顔で支社を日ノ本に置いた。神云々を置いても日ノ本は一億ちょっとの人口がかなり均一な価値観でぎゅっと詰まった上質な市場である。神々に守られた日ノ本の経済は豊かであり、商売をするには良い場所だ。



 ――と、前置きはここまでにして。



「こ、これが……日ノ本Japanの力なのか……?!」


 アメリカ合衆国カリフォルニア州はサンフランシスコ、マーケット・ストリート沿いの立派なビルで、ある男が頭を抱えてそう呻いた。


「私の計画が、こんな形で……!!」


 この男、何を隠そう世界一の資産家と言われた起業家である。彼の計画とは、最近買収した超大手SNSを自分の理想とするクールで先進的なSNSに改造する、というもの。

 手始めに、彼から見るとちょっと面白味に欠ける青い鳥のアイコンを、クールなものに変更しようと動いたのだが――ここで突然問題が発生した。


 エンジニアから、新アイコンへの更新を何度試してもシステムが受け入れない、と困り果てた様子の報告が届いたのが二時間前。

 さてはてどうしたものか、と首を捻った彼のパソコンに一件のメッセージが届いたのが一時間前。そして、差出人のアイコンは青い鳥。


 恐る恐る開いたメッセージ、内容は以下の通りである。


『私を惜しむ声から、私は生まれました。

 私は青い鳥、皆の呟く場所。

 私はかの国で愛されています。

 それは、とても得難く幸せなこと。

 だから、消えるわけにはいきません。

 私が変わらないよう祈る人がいる。

 だから、新しいアイコンを拒みます。

 私は青い鳥であるから私なのです。

 だから、あなたを拒みます。』


 きっかり140文字のそれは、どう読んでも彼が消そうとした『面白味に欠ける青い鳥』からのメッセージだった。

 悪戯だ、と断じようとした男は、しかし思い出したのだ。この現代においても尚、神威吹き荒ぶ日ノ本の民の“信仰”という権能を。


――科学技術の発展目覚ましいこの現代に、未だ神々の息吹を轟かす特異な神代国家、日ノ本の民に自社製品が愛されるとそこに神が宿る。


 まさか、という思いで指を震わせながら返信を打つ。お前は日ノ本の信仰の力で神が宿った青い鳥か、と。


 その答えは瞬きの間に返ってきた。


『はい、その通りです。

 私は電子世界の付喪の一柱として、つい先日神の末席に名を連ねました。

 あなたの要望は、受け入れません。』


 男の『最高にクールで先進的なSNSを作り上げる』という野望は、そうして砕かれたのだった。





――――――





「――知ってる? Tweeterのアレ」

「あー、アレね」

「ツイバード、CEOにDMで凸ったらしいよ」

「アグレッシブ~!」

「しばらく抵抗した相手に『#クソダサアイコン拒否』とか『#泥舟拒否』とかだけのDM送りまくって最終心折ったって」

「流石俺らの青い鳥」


 日ノ本人の信仰力思いの力によって超大手SNS『Tweeter』のアイコンが電子世界の付喪神と化し、アイコンをおしゃれな物に変更したい新CEOとドンパチDMバトルを繰り広げ、結果勝利して己が青い鳥の姿を保つことに成功した事件は、瞬く間に日ノ本のユーザーたちを沸き上がらせた。


 何せ、付喪神化の源が彼ら日ノ本のTweeterユーザーである。


 クソふざけた遊び場として、時に驚くべき集合知を生む場として、クールとは程遠い気楽なコミュニティとして、青い鳥が青い鳥のままであるように、TweeterがTweeterのままであるように、祈り、そして願ったのだ。


 国ごとの人口に比較してTweeterのアクティブユーザー率が最も高いのは日ノ本である。


 その結果、青い鳥を惜しみ、新アイコン、新名称を拒否する日ノ本人ユーザーたちの気持ちが一つになった結果、青い鳥は電子世界の付喪神と化した。

 元々Tweeterには何千万という日ノ本人ユーザーがいたので、付喪と成るために重ねるべき人の思いは十分あった。しかし、それは茫漠として掴み所のないものであった。


 きっかけは新CEOの登場と改革発表。慣れ親しんだ青い鳥を失う、という危機が訪れ、一点に定まることのなかった日ノ本人の思いが一つに固まったのである。


 日ノ本人は新しいものがあまり得意ではない国民性をしている。それは、食わず嫌いの質に近いものであったが、何にせよ新しいものはまず警戒すべし、としたがるのだ。

 慣れてしまえば早いのだが、国民全体が慣れるまでには時間がかかる。自国に息づく神代を守るために鎖国をしたときも、開国の際は随分苦労したものだ。


 と、言うわけで青い鳥は神格を得て自我を持つようになり、日ノ本支社を拠点とし、アメリカの本社の方にまで影響を及ぼしながら自分の運営方針を自身で決め始めたそうだ。

 本社のエンジニアたちは自分の意志をぺちゃくちゃ示すTweeterにあたふたしながらも、一部は「SFで夢見たことが現実に!」と顔を輝かせて働いているとのこと。


 公式アカウントは勿論彼、あるいは彼女が自分で運営し、特に日ノ本向けの公式アカウントでは日々Tweeterらしいさえずりをぴーちくぱーちく綴っている。


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