第7話 我が世の春が来た
朱祁鎮は凡庸な皇帝だ。だが、そこが良い。私が仕込んだ通りに良い字を使い、礼儀作法も学識も及第だ。
彼は九歳で即位した。彼は父親の宣徳帝より私を慕って育った。あとは若さだ。
正統七年、十六歳になった青年皇帝の自我が何を求めるか、上手く誘導するだけだ。彼は紫禁城という聖なる籠の中の龍、私の言いなりになる……いや、これを言っては万死に値する!
訂正しよう、私を最も気にかけて下さるステキな皇帝陛下だ。
たとえば先年のことだ。まだ張太皇太后はご存命で、永楽帝時代に焼失した奉天・華蓋・謹身の三宮殿落成の宴があった時、陛下の傍に私はいなかった。宦官はこの種の宴に侍られない規則ゆえだ。
陛下は物足りない気分になり、使者を私の所に寄こした。
私は確信して言った「周公旦は王のために尽くしたが、私は宴に行けないのですね」と。使者はその通りに陛下に伝え、予想通り東華門の真ん中の門を開いて下さった。それは皇族と特別に許された者だけが通る門だった。私が宴席に現れると、官吏たちは揖礼を以て敬意を示した。
清廉な臣下たちは奏上書で「王振の守銭奴が官界の規律を乱し、政界の腐敗を招く。宦官長の首を挿げ替えるべき」と訴える。あるいは陰で私を罵り、東廠のスパイ網にかかった王振排斥派もいる。
彼らは正式の
私に楯突くものは容赦しなかった。上記の屈辱などはまだマシな方だ。
葬るべき敵は杖刑で瀕死の重傷を負わせ、時にはこの世から消えてもらう。土地財産を取り上げてマネーロンダリングを行い、地位を剥奪し遠い辺境に流した。方法はいくらでもあった。長い歴史があらゆる方策を残してくれたからだ。
これで大明から優秀な官僚はいなくなると?
違う、まったく違うのだ。私が金と引換えに渡してやった地位を保ち、仕事を必死でやり遂げる。そうしなければ生きていけないからだ。
官界は永遠の苛烈な競争社会、一歩間違えば転落し、最悪は九族の死となる。
ゆえに地位を固守し、自身と一族のために頑張り続けねばならない。
彼らが臣民を搾取しようと、関係各位に法外な根回しをしようと私の知ったことでない。運が良ければ
間もなく、私は皇城の東に大邸宅を建てた。そこに私の一族も住み、何人かは有閑職を得て北京暮らしを楽しみ始めた。金銀はいくらでも懐に入った。帳簿は有能な部下が管理している。
私はすでに「王振の朋党」を持ち、朋党メンバーは明の各地で素晴らしい働きぶりだ。我が世の春が来たのだ。私が司礼監掌印太監である限り、朱祁鎮が玉座に座っている限り、春は続くだろう。
私に敵はないと言ってよかった。
永楽帝の時代、重臣が進む時には跪いていた宦官。それがどうだ、今や私と私の一党が進む時、重臣たちは壁際に退いて頭を垂れているではないか。
お前たちは金で何を売ってしまったのか。
男であって男でない者に媚びへつらい、屈辱を感じなくなった俗物中の俗物め。宦官を舐めるな、こうなったのはお前たちの果てしない権力欲のためだ。恥を知らない奴隷と同じだ。
まぁ、いい。お前たちのおかげで、金銀財宝、あらゆる贅沢品が日毎に集まる。私は時にそれを陛下のために使う。早くに父を亡くした陛下のお心の隙間を埋めることも私の仕事であり誇りである。
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