GOATな街の夜物語

KPenguin5 (筆吟🐧)

第1話 Blow Your Cover

「そんな目で見つめないで。」

貴女は俺の背中に腕をまわして肩に額を乗せてきた。

貴女の香りを頭一杯に吸い込んでみる。彼女越しに見える東京の夜景は眩しいほどの輝きで、淡い月あかりが滲んで見える。

俺は彼女を抱き寄せ、

「今日もきれいだな。」とささやいた。


「ごめんね。私じゃあなたには似合わないわ。もっと可愛い娘にしなさい。」

そう言って俺の口にリキュールを口移しで飲ませる。

「俺を子供扱いするのはやめてくれない?俺だって男だよ。」

そう言って俺は彼女をベッドに押し倒して、見つめ合う。

「ふふ、ほら。貴方の鼓動が聞こ…。ん。」

そういう彼女の口を今度は俺の口が塞いで、そのまま俺は彼女に溺れていく。息ができないくらい狂おしく、そしてむさぼるように。


彼女との出会いは偶然だった。1年ぐらい前だっただろうか。

たまたま入ったBarで彼女に声をかけられた。映画の話で盛り上がりその日の夜はそのまま夜を明かした。

俺は、ミュージシャンを目指して上京し、いまだ目の出ない時期だった。

彼女がどんな生活をしているのかなんて何も知らない。

たまにそのBarで会って夜を共にするだけの関係だからだ。


服を着た彼女はベッドに腰掛け俺に言った。

「ふふ。あなたは素敵な人。でも、私にはあなたじゃないのよ。

…結婚が決まったわ。かねてからお付き合いしていた人よ。あなたよりずっと大人の素敵な人。だから、私とはこれで終わり。」

彼女はそういいながら俺の頸から腹を人差し指でなぞっていく。

「…君はそれでいいの?」

「あなただって、やっとつかんだチャンスみすみす逃すのは惜しいんじゃなくて?私といればあなたはそのチャンスを逃すことになるわよ。」

そう、俺はやっと自分の目指した道を進むチャンスを得たところだった。

「あなたは身を固めてしまうにはまだ早いわ。」

そういう彼女の眼には涙がにじんでいるように見えた。

「じゃ、私置いていかれるのも嫌いだから、先に部屋を出るわ。

さようなら。」

最後に彼女は俺に軽く口づけをして、部屋を出て行った。

彼女の涙の味が少しだけ残った。


彼女の居なくなった部屋は寒々として俺はこの泡沫の恋の余韻を味わうかのように彼女の残り香を吸い込んで、シーツの海に沈んでいった。


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