第37話

「た、頼む!これを直してくれ!」


男は、泣き叫んでいた。

その言葉に「じゃあ、俺が体で責任とらなくていいんだな」とのんびり返している。


「ああ!ああ!いい!いいから早く!!!」

「よしよし…」


呆然としている私たちなんて目もくれず、男は怪我を治してもらうと、ピュッと逃げ去っていく。


「じゃ、俺たちも行くか」


振り返って、美形の男が言った。

私を見つめる瞳にようやく「アスラン……?」とつぶやいた。


「だから言ったろ。俺は絶世のイケメンだって。ほら。周りの人間の目線を独り占めだ」

「…………。いや。これはイケメンとかそういう問題じゃなくて…いやもういい…行こう…」


アスランが不思議な力を持っていることはなんとなく分かった。

子どもになったり、大人になったり。理屈は分からないけど、それだけじゃなくて、初めてアスランが怖いと思った。

この人を怒らせたら、私もあの男の人みたいに痛い思いをさせられるのかな、なんて考えてしまう。


「早く酒飲もうぜ~」

「ん」

「きゅう……」


ポン助の顔はしわしわだ。こんなことを思ってしまったらダメなんだけど。かわいそうで可愛いとちょっと思ってしまった。


「そういえば、手は?大丈夫?さっきポン助に噛まれてたけど」

「おう。あんなのどうってことない」

「……」


手は噛みあと一つ付いてない。

本当にこの人、人間じゃないんだなって思った。

まぁ、神様なんだけどさ。人間の形をしているから、どうしても人の基準で考えては、違うことに驚き、引いてしまう。


私たちは場所を移して、アスランの念願のお酒を買いに行った。

子どもだからと断れたさっきの出店である。


「お。姉ちゃん綺麗な兄ちゃん捕まえたな~。さっきの坊主はねんねか?」

「おっちゃん。今度こそお酒くれよ」

「今度?」

「米焼酎一つください」


変なこと言わないでほしい。

私は、さっきまで怖かったアスランを腕でどけて、財布からお金を出すと店主に渡した。

そして、酒をもらうと、アスランに手渡した。

アスランは、受け取った瞬間、グビッと飲み干してしまった。


「えっ!」

「おっちゃんおかわり!」

「いい飲みっぷりだなぁ!はい!」


店主は、私に向かって手のひらを向けてきた。

代金を要求しているのである。

私はまた財布を取り出すと、お金を店主に渡した。


「まいどあり!」


アスランがまたもや一口で飲み干してしまった。

こいつ、本当に味わって飲んでほしい。

わんこそばじゃないんだからさ…こうガバガバ飲まれると、財布がすぐに寂しくなってしまう。

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