第22話

「いやぁ。この国は儲かるな」

「田舎だと思っておりましたが、来て正解でしたわね」


他の国だと、こうはいくまい。

自身が、信仰している神のもの以外、売り物にするのは、厳しく取り締まられている。

おまけに審査が、義務づけられているので、下手なものは売れない上に値段も国内のものを買う人間しかいなかった。

しかし、世界を旅してきたが、ここほど信仰心がない国は、はじめて訪れた。

商売のしやすいことしやすいこと。

世界神の名前も知らない彼らに、うわべだけのご加護がついた守りを売り付けるのは、いとも容易かった。

噂に聞くお守り屋も、こちらの妨害工作に簡単にはまってくれたおかげで、向こうが「本物」にも関わらず、偽物判定を食らったときは、愉快でたまらなかった。

裁判の時のあの顔は、見ものだった。

異教徒と叫ばれ、石を投げつけられる日々。

それが、どうだ。

神に守られず、自身に石を投げつけられるだけだったのが、今度は、自分が石を投げつけてやった。

今、あの女がどうしているかわからないが、顔も出せないに決まっている。


「ごほ、ごほっ」

「お父様、大丈夫ですか?」

「ああ。少し疲れているだけだ。心配ないよ。医者も喉がはれているだけと、ごほ、言っていたしな」

「ですが、ずっと咳が止まらないじゃありませんか」

「なに、ごほ、ごほっ!大丈夫だ。少し休めば、すぐに回復するさ。それより、お前、恋人ができたといっていたが」

「はい。とてもいい人です。実は、あのお守りやの恋人なんです」

「なに、大丈夫なのか。そいつは」

「はい。あの人もとっくに別れたといっておりました。私のお守りを信じると言ってくれたのです」

「そうか。いい気味だな・・・ごほ、ごほごほごっ!」

「お父様っ!」

「すまんな。少し寝る。お前にうつすのも怖いから、部屋は、開けないように」

「わかりましたわ。お大事に」

「おやすみ」

「お休みなさい。お父様」


娘は、とても心配そうな顔をしていた。それににっこりと笑い返す。

なにも心配はいらないというように。

なにも起こっていないというように。

扉を閉め、薬を飲む。


「ごほっ!ごほっ!ごほごほごほごっ!!!あの、やぶ医者め!なにが、ただの風邪だ!こんなに苦しいというのに!」


少し前から、咳が止まらない。

熱もずっと上がったり、下がったりしている。

熱冷ましをずっと飲んでいるが、一時的に熱が、下がってもまたぶり返してしまう。頭もずっと痛むし、疲れがとれない。


「この国に名医はいないのか!これだから、田舎は・・・」


この国を離れてもいいが、今が売れどき。

この国の民は、とても羽振りがいい。平民も貴族も皆が、お守りを買っていく。

そんなことは、他の国ではありえない。


「金だ・・・こんなに儲かる国は、他にないんだ・・・風邪がなんだ。そんなものは、すぐに治るさ・・・」

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