第4話
「もしも、間違ってたら申し訳ないのですが、まさか貴方の理想の男性が、ある日、貴方の家にやってきたってことですか?」
「さっきから、そういってんじゃねーか!」
「その男性の方と、過去に会っていたとか」
「ないない。だから、お守りの力って言ってんじゃん。さっきからさ、アンタが馬鹿すぎて、こっちはめんどくさいの。分かる?あんたのせいで、私は貴重な時間がどんどんなくなっていってんの。時給1万円ね」
理想の男性が、ある日、自分の家に押しかけてくる?それが、本物のお守りの力?
いくらなんでもそれは… … …。と思いつつも、少しだけ、不安になる。
私は、小さい頃から、お守り作りについて、勉強してきた。17時間、ずっと作っていたこともある。それでも、もしかしたら、私の力不足で、お守りの力がなくなっていたとしたら?
目に見えない力だから、それが失われていたとしても、私には分からない。
祖父だったら…、祖父が生きていたら、どうしていたんだろう。
「はい。では、もう一人、貴方のお守りが偽物だと証言してくださるかたがいらっしゃいます」
やたらに馬鹿を連呼する女性がいなくなって、少しほっとする。
私は、そこで無意識に震えていたのに気づき、大きく深呼吸する。
予想外の客の対応に追われている時、どうしても震えてしまう。パニックになってしまう。
これだけは、どうしようもなかった。
おそらく私に接客業は、向いていないのだろう。
臨機応変。柔軟な対応。それらは、私の中から著しく欠けているから。
それでも、私にはお守り作りしかなかったから、やっていくしかなかった。
勉強もこれだけは、苦痛なく出来た。休みの日なんてものは、ない。私は一日中、勉強して、作って、それを毎日繰り返す。これからもきっとそう。
昔は、私が間違えてたり、頑張っていたりしたら、厳しい言葉や優しい言葉をかけてくれた父も祖父も、もういない。もう誰も私に教えてくれる人は、いない。
だから、私がきちんとしていなくては。先祖が、祖父が、父がずっと作り続け、多くの人たちに渡してきたお守りをここで、途絶えさせるわけにはいかない。
大丈夫。
私は、ずっと頑張ってきた。
それこそ、神様に恥じない生き方を、自分自身ではしてきたつもり。だから、大丈夫。
次に出てきた顔も先日、見たことがある。
店に来た時から、独り言なのか、こちらに話しかけているのかよく分からない声量で、話すものだから、困惑した覚えがある。
「貴方も先日、うちに買いに来られていましたね。確か開運招福のお守りでしたか」
「そうだよ…そこで買ったお守りがまったく効果がなくて、こっちはお金がなくなってしまった。お金返してくれよ」
開運招福は、無病息災と同じように人気があるお守りだ。
ただ、いきなり素晴らしく良いことが雪崩のように押し寄せてくる…ということはない。
ただ、その人が進もうとしている道を少しだけこじ開けてくれる、背中を押してくれる、そんなお守りだ。
「なぁ200万返せよ」
「に、にひゃくまん!?」
今度の人もおかしいのか… …。
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