住宅の内見はしろメロス

きつねのなにか

メロス、怒る

メロスは激怒した。

妹夫婦が新居に引っ越すそうなのだが、ネットの間取りだけを見て住宅の内見をしなかったというのだ。

メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。

メロスは不動産会社が何を言っているかはわからぬ。

しかし住宅の内見に関しては人一倍熱心な男であった。


メロスは同棲しているセリヌンティウスの家から帰り、久しぶりに妹夫婦へ遊びに行くことにした。すでに伝書鳩は送っている。楽に帰るだけだ。

セリヌンティウスと肩を抱きながらイチャコラしつつ家来の王を蹴り飛ばして帰っているとき、事件は起こった。

大雨が降ってきたのだ。これではいかんとシラクサのセリヌンティウス邸に帰り王も交わりながらラブラブどっきゅん💘。これにはたまらず雨も退散。さあ今度こそ妹の家に向かおう。

野を越え山を越え、ちょうど山の頂上に来たときにそれは起こった。

「俺たちは悪党だ。おまえらいい服装をしているな、金を置いて逃げるか死ぬかのどちらかを選びな」

そう、セリヌンティウスが株で稼ぐのでみんなよい暮らしをしているのだ。服装も豪華だ。王が一番みすぼらしい服装をしている。愚行のせいで民が離れ税収が少ないからな。

「そうはさせん。おまえら来るのだ」

そういって王が召喚したのは親衛隊200体。王の警護は万全なのだ。

200体の親衛隊にボコボコにされている賊をよそに悠々と歩き抜ける3人。川を越え、メロスの妹のところまでやってきた。

「やあ妹よ。愛する妹よ。ラブラブどっきゅん💘はしているかい? 今日は住宅の内見を手伝いに来たぞ。内見は重要だからな」

メロスの弟となった、妹の夫は言う。

「いやー、面倒なのでネットの内見だけで済ましちゃいました」

メロスはコースクリューパンチを夫にかました。

そしてメガロガタメを妹にかけた。

「馬鹿者! ネットの内見だけで決める馬鹿がおるか!」

「で、でも、今はネットが主流の時代ですお兄様」

「住宅の内見だけは、住宅の内見だけは現地で見ろ! 壁の厚さや近隣住民の民度、本当に使えるコンロなのかがわかるのは現地で見るしかないのだ! お風呂付きと書いてあって実際のお風呂が小さすぎては入れなかったときとかはどうするんだ!」最後のは筆者の思いが炸裂したようだ。


これにはたまらんと明朝住宅の内見に行こうと納得する2人。

今日の夜はザアザア降りの雨である。アマ漏れがしていないかを見る絶好のチャンスだな。


次の日だ、雨はやみ、小春日和の朝である。

そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気さを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。

ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧わいた災難、メロス達の足は、はたと、とまった。

見よ、前方の川を。きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。

彼は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に浚さらわれて影なく、渡守りの姿も見えない。流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。メロスは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながらゼウスに手を挙げて哀願した。「ああ、鎮しずめたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、住宅の内見をすることが出来なかったら、あの佳い夫婦が、私のせいでつまらない住居に住むのです」

 濁流は、メロスの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。浪は浪を呑み、捲き、煽あおり立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。今はメロスも覚悟した。泳ぎ切るより他に無い。ああ、神々も照覧あれ! 濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。メロスは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻かきわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。ありがたい。メロスは馬のように大きな胴震いを一つして、すぐに後ろを振り返った。


誰もついて来られなかった。メロスはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

住宅の内見は、できなかった。


王「わしがあげればよくね? メロスのためなら喜んで住宅建てるよ?」

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住宅の内見はしろメロス きつねのなにか @nekononanika

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