第2話 「天国でもあり地獄でもある配信」
楽しみではあるが、心配と不安で一睡もできなかった。
「今から断るなんてできないしなぁ」
昨日あんなに決意したのにもう弱気になってしまう。断ったらなんて言われるだろう。あの人なら、『大丈夫ですよ』って言ってくれるだろうか。嫌なヤツって思われるかもしれない。
「……嫌われたくはないなぁ」
昔、友達だったヤツも俺がこんな性格だったから、離れていったんだ。そんなん友達か?って言われるかもしれないけど俺からしたら友達だったんだ。
「勇気がなさ過ぎるんだよ、リアルでもネットでも」
いつだって勇気が必要だ。友達になるのも勇気がいるし、話すのにだって勇気が必要だ。
「……頑張るか。いや、がんばれ俺」
そんな独り言を言いながら、朝ご飯を食べる。今日は、 午前中は大学だ。配信は夜からだし大丈夫なはず。 そんな事を考えていると、デェスコからの通知がくる。
水無瀬イツキ『おはようございます!今日の配信は20時から始める予定なのですが、諸々の準備で19時集合でいいですか?』
kai『大丈夫です。準備しときます』
水無瀬イツキ『ありがとうございます!コーチングお願いしますね!』
kai『分かりました』
さて、もう配信するのは確定だ。それなら俺がすべき事は……
「水無瀬さんの事、調べとかなきゃ」
コラボ相手の事を何も知らないのはまずい。昨日調べておけ?それはその通りである。だが言い訳させてほしい。昨日は前述した通り一睡もできなかったのと、緊張でどうしようもなかったのだ。
「大学行ってる間に見るか」
なんやかんややってる内に、大学に行く時間がきたので 家に鍵を掛けて出発する。俺が通っている大学はそこそこ近くにあり、電車で1時間ぐらいである。電車に揺られている間に調べれるだけ調べておこう。
「今日も人多いなぁ」
電車内はいつも通り人で溢れている。憂鬱な気分になりながらも扉の近くの席に座ることに成功する。空いててくれて助かった。なんか久しぶりに座れた気がする。 スマホのロックを解除し、グーグレ先生を開き、『水無瀬イツキ』と検索する。
色々と出てくるが、1番上にでてきた『空色ライブ』の公式サイトに入り、『水無瀬イツキ』の紹介を押す。
水無瀬イツキ 年齢?? 性別 男
活発な男性。声や言葉遣いが女の子っぽく、初見では女の子と間違われることがある。年齢は若そうに見えるが、いつもは何をしているか分からない。多くの人と友人になりたくて、活動を始めた。
俺、女の子だと思ってたんだけど。あの声とあの言葉遣いだからめちゃめちゃ女の子だと思ってたって。立ち絵も可愛らしいデザインだったからなおさらそう思ってたわ。まぁ、女の子だろうと男の子だろうと俺のコミュ障は変わらないがな。ガッハッハ。笑えよ。笑ってくれ。−−−−−水無瀬さんを調べた後、『空色ライブ』に所属している他のライバーも調べてみる。『空色ライブ』には、男女合わせて、16人が所属しているらしい。今は全員を覚えることはできないが、今日の配信でこの中の誰かの話題がでるかもしれない。少しぐらいは覚えといた方が楽だろう。話せる努力はしなければならない。まぁ、そんな努力してもちゃんと喋れないの悲しいね。調べている間にいつの間にか、電車が大学近くの駅にとまる。そそくさと降り、大学に向かう。駅から大学までは10分ぐらいかかるので歩く必要があるがそんぐらいなら問題ない。大学の講義が耳に入ってくるだろうか。夜の配信のことで頭がいっぱいになっている。持ってくれよ!俺の身体!そんな事を考えながら、大学の敷地に入っていった。
その頃水無瀬イツキのデェスコでは−−−
あおい『突然だけど今日abcxできる?』
水無瀬イツキ『ごめーん今日できない』
あおい『なんかあるの?』
水無瀬イツキ『なんと!abcxのコーチングして
もらうことになったんだ!』
あおい『そうなの?誰がしてくれるの?』
水無瀬イツキ『如月カイさんって人だよ!』
あおい『知らない人だね、大丈夫なの?』
水無瀬イツキ『悪い人には見えなかったから大丈夫だよ!あとめちゃめちゃ上手いし!』
あおい『上手いの関係あるの?まぁ大丈夫ならいいけどさ』
水無瀬イツキ『多分明日ならできるよ!』
あおい『じゃあ明日やろうよ』
水無瀬イツキ『オッケー!』
あおい『明日、如月さんも誘ったら?』
水無瀬イツキ『今日誘ってみるね!』
カイの知らない間にコラボする予定の人が増え
たのだった。
今日も大学の講義を乗り越えた。まぁほぼ午前中だけだが。単位を落とさないためにも頑張らなきゃなぁ。そんな事を電車に乗りながら考える。だが、今は今日の配信を考えるべきである。家に帰ったら瞑想でもして心を落ち着かせよう。このままでは配信時間までもたない可能性がある。持ってくれよ!俺の身体!ver2!
「ただいま」 一応は1人暮らしであるので、ただいまを言える相手なんていないが、実家に居た頃の癖で言ってしまう。最近は誰もいないのに、ただいまって言うのが悲しくなってきて、ペットを飼おうか悩んだ。金がないから諦めたけどな。現在の時刻は15時。約束の時間までは少しあるので abcxの練習を、と思いパソコンを起動する。
「ちょっと練習するか〜」
いつも通りのマッチングの音を聞きながら戦いを始めるのだった。
−−−−−−戦いまくっていたらいつの間にか19時前になっていた。あぶねえ、気づけてよかった。このままいってたら約束すっぽかすところだった。まぁ、気づいたからヨシ!(現場猫)そんなことは置いといてデェスコを開く。 今は18時58分。ギリギリでございます。
kai『もういますか?』
水無瀬イツキ『いますよー!通話かけますね〜』
「こんばんは~!」
「あっ、こんばんは」
「なんか元気ないですね〜大丈夫ですか?」
「あっ、俺がコミュ障なだけです」
「あーなるほど!僕の事務所にも同じような子がいるんで、気にしないようにしますね!」
なんかそれはそれで変な感じがするがまぁいいか。
「そ、そういえばなんでコーチングしてほしいんですか?」
「前シーズンのランクがエリートだったんです。マスターにいけなかったのが悔しくて、頑張ってるんですけど中々上がらなくて……どうしたらいいか聞きたくって」
「あーおけです」
「もう配信の準備ってできてますか?」
「ま、まぁ、できますよ」
「じゃあもうやっちゃいましょうか!」
「もうやるんすか?」
「駄目ですか?ちょっと早いですけど」
「や、やりましょう」
「分かりました〜やっちゃいましょう!」
………男の子………ですよね?なんか忘れそうなぐらい声かわいくない?本当に男の子なんですか?空色ライブの公式が嘘ついてるわけじゃないよね?俺のゴミみたいな声がなんか悲しいわ。生まれ変わったらあそこまで可愛くなくてもいいけどもうちょい良い声が欲しい。
「準備できました!今日はよろしくお願いしますね!」
「よ、よろしくお願いします」
予定よりも30分早く配信を始めることになった。 第1に、できるだけ喋るように努力する。第2に喋る。 第3と第4は飛ばして第5に喋る!ヨシ!いける!
……………なんか無理な気がしてきた。炎上しないように動くだけで精一杯なのでは?初コラボの相手が人気vtuberってだけでなんか思われそうでもある。
「配信つけまーす!」
「は、はい」
始まってしまう。天国でもあり地獄でもある配信が。 持ってくれよ!俺の身体!ver3!
「みんな〜こんばんは~!」
俺の配信者人生を分ける配信が今、始まる。
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