第50話 はじめてのパン

  はむはむ。


 オレは今、この異世界に来て初めて人間様の食い物を食べています。


 ウサギがパン食ってますよ奥さん。


 実際のウサギには食べさせちゃダメですからね。



 うん、日本にいたころのパンと比べてはいけないことは分かっています。


 とっても固いです。


 まあ、オレのウサ前歯にかかれば何てことはないんですけれどね。


 それに、もっさもっさしていますね。


 でもでも、そんなパンでも、小麦の味と香りがするんですよ!


 日本にいたころの、縄文遺跡のイベントで食べた古代のパンを思い出しますね。




  ぴちゃぴちゃ。


 そして今度はスープです。


 なんと、


 なんと! 


 塩の味がします!



 お世辞にも濃厚とは言えないのだとは思いますが、この異世界に来て初めての塩味です!


 え? ウサギは塩っ辛いの食べちゃダメなんじゃないのかって?


 大丈夫です。


 オレは魔物ですから。



 そして具はお野菜とお肉のかけら。


 たぶんクズ野菜なんだとは思いますが、それでも野菜です。草じゃないんです!


 お肉に関してはオーク肉を焼いた方が美味いことは内緒にしておきます。




 森に居るときの、草と魔物肉だけの食生活から比べれば大いなる進歩です!




 

 こうして、オレが人間様のお食事にありついて満足していると、妙に周りが騒がしくなっている。


「おい、見ろよ。ウサギがパン食ってるぜ?」


「ばっかお前、さっきの見てなかったのか? あのウサギ、さっきなんかあの伝言板に文字書いてパンとスープ注文してたんだぜ」


「なあ、俺はウサギに詳しくないんだが、ウサギってそんなに賢いのか?」


「いやいや、お前らまだ知らないのか? この前のスタンピード、街の防衛隊に参加したホーンラビットの亜種が居たって話だったじゃねえか。それが、そこの魔物様だよ!」


「おお、それじゃあ、大活躍してこの街を救ってくれた立役者の一人、いや、一匹? じゃねえか!」


「なんだと!? 俺の兄貴はそのウサギ様にあぶねえところを助けられたんだ! 女将! ウサギ様にパンとスープ! 俺のおごりだ!」


「おお! 英雄ウサギ様に感謝だな! 俺からもウサギ様に奢らせてくれ!」


 こうして、オレのテーブルの前にはうずたかくパンが積まれ、大きな寸胴鍋のままのスープがデデンと置かれたのであった‥‥‥。



◇ ◇ ◇ ◇



 げっぷ。


 いやー、お腹いっぱいです。



 え? 


 大量のパンとスープをどうしたのかって?


 もちろん完食しましたよ?


 フードファイターを舐めないでもらいたい。


 まあ、食い過ぎで『くいだめ』のデバフが発生しちゃってますが、『暴食』のスキルでそのうち消化されるでしょう。




 そして、


「ウサギ君? さっきの大量の食事は一体君の身体のどこに入ったのかな? どう考えても、君の身体の体積よりも数倍の量だと思ったんだけれど‥‥‥」


「もしかして、ハクトさんのお腹の中には次元収納マジックバッグみたいな機能でも付与されているのかしら? でも、そんなことしたら栄養が取れなくなってしまうでしょうし‥‥‥?」


 オレの大食いっぷりを見てガルヌさんとパーリフォーシュさんが訝し気にしておられる。


 いや、たしかに大量の食物が体のどこに入ったんだという疑問はフードファイターのオレが人間の時から抱えている永遠の謎なのだが。


 いや、それよりも。


 今、パーリフォーシュさんなんて言った?



 オレの聞き間違いでなければ、たしか『次元収納マジックバッグ』って言ってたはずだ。


 この異世界にはマジックバッグが存在するのか?!



 欲しい! 


 欲しい!!


 ほっすぃーーーーーーーーーい!!!!



 だってあんた、あたしゃ物品搬送能力ゼロに等しい4足歩行動物ですよ?


 このまえ手に入れた巾着袋が最大積載量なんですよ?


 マジックバッグなんて異世界の定番アイテム、欲しくない訳がないじゃないですか!


 それさえあれば、これまで無駄に廃棄せざるを得なかったオークさんのお肉とか、魔物倒して手に入る魔石だとか持ち帰り放題ですよ?


 これは何としても、どうにかしてゲットしなくちゃいけませんですね。




 たしたし。


 オレは前足をたしたししてシャリエの注意を惹く。


 シャリエがこっちを向いたのを確認し、先ほどのように伝言板を前足で指し示し、その前にだっこで連れて行ってもらう。


 そしてチョークを手に取り、



 『まじっくばっぐ ほしい』



「あら? ハクトさん、わたくしの話を聞いてマジックバッグに興味を持ちましたの?」


「むーん、そうだ! ウサっさん、街防衛の英雄だもんーね! だったら、報酬としてねだってもいーかもーね!」

 

「そうだね。本当は僕たちがウサギ君にプレゼントしたいくらいだけれど、さすがにマジックバッグともなると値段が張るからね。報酬としてギルドにねだるのが一番いい方法かもしれないよね」


 

 ん? 報酬?


 そうか。オレとしては、どこに売っているんだだとか、手に入れるためにはどんな方法を取ったらいいのだとかそう言うことを尋ねようと思っていたのだが。


 何か情報が得られれば儲けものとダメもとで書いてみたんだが、もしかして何とかなりそうなのか?



「にゃー! そうと決まれば、ウサギちゃんと私たちの報酬を受け取りにギルドに行くのにゃー!」



 こんなやり取りがあり、オレたちは冒険者ギルドへと向かったのだった。






 ーーーーーーーー

 

 とうとう50話に達することが出来ました。


 これもひとえに読んで応援してくださる皆様のおかげでございます。


 これからもよろしくお願い致します!

                      桐島 紀

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