第10話 ならずもの、懲役刑を終える

「なあ、一体いつになったら家代をもらえるんだ?」


 訪れたのは、リサが購入した一軒家の持ち主。猟師の息子の指物職人だ。


「いやー、足繁く出向いてはお願いにいっているんだけれどもね、なかなか払ってくれなくて」


 リサに一軒家を提供してから三ヶ月が経った。

 でも、リサは一向に家代を支払う気配がない。

 実はお金がないんじゃ……と思っていたけれども、俺はちょくちょく買い物を言い渡されて、銀貨をじゃんじゃん使っている。お金に困っている気配はない。


「誠に申し訳ありません。今月には必ず取り立てますので……」

「ま、誰も使う予定がなかったボロ家だ。気長にまつとするよ。じゃ、今回も飲み代はチャラってことで、ごちそうさま~!」


 猟師の息子の指物職人は、平謝りする俺の肩をぽんぽんと叩くと、鼻歌を歌いながら千鳥足で去っていく。リサの未払の肩代わりとして、宿屋に併設されてある酒場の飯代を酒代をサービスしているのだ。


「エラブ、まだあのエルフは、代金を渋っているのかい?」


 おかみさんが、腕を組みながらため息をする。


「仲介手数料として、エルフと指物職人から銀貨1枚ずつもらえるってんで、二つ返事でOKしたけどねぇ。こう、ちょくちょくタダ酒、タダ飯を食いに来られたら、商売上がったりだよ。あのエルフには、いい加減約束を守ってもらわなきゃあ。分割でもいいからさ、金払ってもらえないか頼みに行ってくれないかい?」

「わかりました」

「じゃ、そんなわけで今日は閉めるよ。オラ、冒険者度ども、いつまでも飲んだくれてんじゃないよ!!」


 おかみさんが、ホウキで冒険者たちのケツを叩いて追い払っているのを見ながら、俺はせっせと食器を洗いながらため息をつく。

 しょうがない。明日、リサの家に行ってみよう。


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 宿屋見習いの朝は早い。まだ周囲が薄暗い中、物置部屋を飛び起きると、俺はいつものように、馬小屋へと行く。ウマのバラと、ヤギのモンの世話をするためだ。


「おはよー。バラ、モン!」


 俺は、小屋のかんぬきを上げるとドアを開け放つ。だけど、目の前にいるのは、ウマとヤギじゃあない。土下座をしている人間のバラとモンだった。

 そっか、ふたりが転移執務室のおねーさんに懲役刑をくらってから、ちょうど6ヶ月か。

 バラとモンは、土下座をしながら話を始める。


「アニキ! この6ヶ月、お世話戴き誠にありがとうございやした」

「ありがとうでヤンス!」

「おりゃあ、この6ヶ月で痛感しました。人のために奉仕する素晴らしさを! ミルクを出すと、みんな大喜びするんですから!」

「オイラたち、あの笑顔が忘れられないんでヤンス!」


 すごい! めっちゃ改心している。転移執務室軽のおねーさんの懲役刑のこうかはばつぐんだ!


「そんなわけで、おりゃたち親分についていくことにしました!」

「今までお世話いただいた恩返しをしたいでやんす! 子分にして欲しいでヤンス!」


 恩返しをしたいって言われてもなぁ。ぶっちゃけ、ウシとヤギだった時の方が役に立つような気がする……ん?


 俺は、バラとモンの首で光っている銀色のプレートに目をやる。


「え? おまえたち『銀の勇者』だったの!?」

「へえ。ならず者として東へ西へ、ダンジョン探索に明け暮れる毎日で、いつの間にか『銀の勇者』の称号をいただいておりやした」

「勇者だなんてガラじゃねぇでやんすし、大手を振っては言い触らしてないでやんすけど」


 なるほど、なるほど。俺は妙案を思いつく。


「だったら用心棒として、家賃のとりたてに付き合ってくれないか? 一軒家を購入したのに、もう3ヶ月も代金を踏み倒している輩がいるんだ」

「なーーーーーーーに! 代金踏み倒しなんてトンデモない悪党だ!」

「これはお仕置きが必要でやんすね!」


 おいおい、君たち、宿代滞納で、転移執務室のおねーさんにウシとヤギに変えられたんだよね? ま、いいや。


「それじゃあ、まずは宿の朝ご飯の支度を手伝ってもらって、それからとりたてに行くってことでいいかな!」

「わっかりやした親分!」

「でやんす!!」


 こうして、『銀の勇者』ふたりを用心棒を加えて、俺はリサのもとに未払金の取り立てにいくことになった。


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