第8話 銀の魔女のユニークスキル

「ひいひぃ。コレで最後だよな」


 俺は『鋼の魔女』銀髪のエルフ、リサからの半強制的な依頼で、四つ折りの紙に書かれていた買い物リストに書かれた品を求めて、あっちこっちの店へと駆けずり回っていた。

 背中の背負子しょいこには、大量の生活雑貨が積まれている。背負子しょいこの紐が肩にガッチリと喰い込んでめっちゃ痛い。


 購入に使ったお金は、買い物リストの紙切れと一緒に、いつの間にか巾着に入っていた、銀貨5枚で工面する。

 本当にいったい、いつの間に俺の巾着にいれたんだ??


「ありがとうございやっしたー」


 俺は最後の買い物のパンと鹿の干し肉を購入すると、宿屋へと戻る。太陽はもう限りなく山の向こうに隠れていて、強烈な西日がひどい。


「はぁはぁ疲れた。でもってこの荷物を俺の部屋の樽に詰めればいいんだな?」


 俺はフラフラになりながら部屋に流れ込んで、購入した商品をせっせと樽の中に目一杯詰め込むと、寝床の藁の上に倒れ込んだ。


 それにしても、なんだってこんな事するんだ?


 俺は、生活雑貨を大量に詰め込んだ樽をボケーと見ていた。すると、


 ガタッ! ガタガタガタガタッ!!


 突然、樽が震えだしたと思ったら、たちまち銀色の光に包み込まれる。


 え? どういうこと??

 

 俺は、樽の中を覗き込む。


「え? なんで??」


 俺は予想外の出来事に声を上げる。生活雑貨をパンパンに詰め込んだ樽の中は、もぬけのカラになっていて、代わりに四つ折りの紙が一枚だけ入っていた。

 俺は樽に潜り込んで紙切れをつかむと、そいつを広げてみる。紙には見慣れた文字で一言、


『次は、この樽にお湯を入れて頂戴! 大至急!!』


 と、リサからの次の依頼が書かれてあった。



 俺は、ゴロゴロとタルを転がして、宿屋の隣の公衆浴場へと持っていく。

 周囲を活火山に囲まれたこの街には、温泉がゴロゴロと湧いている。この公衆浴場もそのひとつだ。


 パチリ!


 俺は、ヨボヨボのおばあちゃんが座る番台に銅貨を置くと、そのまま樽をゴロゴロと転がしながら脱衣所に入ると、着ている服をぬぎさった。


 せっかくだ。要件ついでにひとっ風呂浴びていこう。


 ザー!


 俺はかけ湯をすますと、樽の中にせっせとお湯を入れていく。

 そして、一杯になったとき、


 ガタッ! ガタガタガタガタッ!!


 突然、樽が揺れ始めて銀色に光りだした。

 ん? ひょっとして??

 樽の中のお湯は空っぽになっていて、中には紙切れが入っている。


『もっともっと! じゃんじゃん入れちゃって!!』


 ザー! ザバー! ザバババー!!


 俺はお湯を入れ続けるも、樽は「ガタガタ!」と震えると、まるで底が抜けたみたいに綺麗さっぱりなくなってしまう。

 これ、嫌がらせだよね! 絶対嫌がらせだよね!!


 おそらく、だけど、この樽はリサの家に繋がっているのだろう。

 部屋の内見の前に、銀髪をしばりつけて、ブツブツと呪文をとなえていたもの。


 でもって、日用雑貨を購入させた後、今度は延々とお湯を入れては樽の中を空っぽにして俺を嘲笑ってるに違いない!!


「もう限界だ!!」


 怒りが限界に達した俺は、樽の中に飛び込んだ。リサに一言文句を言わないと気がすまない!!


 ガタッ! ガタガタガタガタッ!!


「ぐ、ぐぼぉ!!」


 その瞬間、俺はお湯の中にいた。リサのやつ、きっと俺が樽の中に入ることを見越してこんな嫌がらせを!!


「きゃあああああ!!」


 え? 悲鳴?? 俺は慌てて顔をあげる。


 そんな俺の目の前に居たのは、顔を真っ赤に染め上げた一糸まとわぬリサだった。

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