第70話 姉妹は見た
「ガウルよ、お前は一部始終を見ていたのだろう? 実際のところ、あの弟妹の才能はどうだ?」
シュウサイとの最後の会話を終え、シュウサイから最後に言われたことを反芻しながら、トワイライトはガウルに尋ねた。
「天賦に申し分なし……才能だけなら、姉上の右腕と左腕である、シンユーとマイトすら及ばないだろう……戦闘や魔導の才能という意味では僕もね……」
「才能は……か」
「弟の方に関しては、まともに戦えばボーギャックに勝てなかった。ただ、あのときは色々な運や隙、動揺、ボーギャック側の事情なども重なり……だが、それでも数年後は……」
「ぬぅ……そうか。で、妹の方は? 実際手合わせもしただろうし、何よりもあのシュウサイと―――」
「今のところ、才能のバケモノ度で言えば、妹の方が僕は怖い……シュウサイの魔法を見ただけで全て……異なる属性の合成も……あれは、魔法の歴史を一人で一気に100年ぐらい進化させるかもしれない」
「……それほどか」
八勇将。そして六煉獄将。現在全ての世界において最強クラスに位置する称号を持つ者たちの評価がソレ。
弟妹そろって「バケモノ」であるという事実。
「ただし、今なら……わらわやキハクで抑えられなくはない……か」
「しかし、クローナも黙っていないだろうけどね……クローナが黙っていないとなると……あのザンディレも」
「ううむ、その件もじゃのう……さらりとギャンザをねじ伏せとるわけだしのう……天界の戦乙女……昔よりも強くなっておるな。メイドをしながらコッソリ訓練しているとみた」
トワイライトは頭を抱えた。
今この魔界には、六煉獄将や八勇将の称号を持たないのに、それを打倒する力を持ったものが3人も居るのだ。
そして、それを今は自分たちの妹であるクローナが手元に置いている。
しかし、今は大人しくしているが、いつかそれが何かの拍子で狂ったらどうなるか?
「……こうなると、本当にクローナの存在が重要になってくる……今後、無闇に戦場に出してはならんと思うぐらいにな……」
「実際、それで前回人類の罠にはまり、ロイヤルガードを失い、殺されるところだったとか。まあ、そのきっかけであの弟妹と出会ったわけだが……」
「今のところ、その出会いがわらわたちに多大なる功をもたらしているわけじゃが……うーむ、こうなるとクローナと結婚とか本気で考えねばならんのか?」
「え? 姉上、本気じゃなかったのかい? もう、クローナその気ですよ? っていうか、本人は式を挙げてないだけで、夫婦と想っているのでは?」
「は? んなわけあるかー、なのじゃ! よいか、結婚とは夫婦となること、そんな出会ってすぐに結婚とかありえぬのじゃ! まずは交際から、デートから、デートとは、いや、したことないから分からんけども、で、でも、手を繋いで、あ、うらやまし……じゃなくって、それで3回目のデートぐらいでついに、ち、ちっすして、えへへ、ちっす……どんな味なのじゃ? って、違くて、そ、それで、え、え、えち、えち、えちちなことをじゃなぁ~……で、えっと、そのぉ……そう、魔界の姫に婿入りするのならば相応の資格試験も必要なのじゃ! つか、フツー将来有望なら、わらわが……ん? わらわがあの小僧と結婚すれば丸く収まるのでは?」
「……姉上……アーナルホドーワカリマシター」
真剣な話をしていたはずなのに、途中からトワイライトが顔を赤くしたり怒りの顔を見せたり、照れたりと、色んな表情を見せて捲し立てるが、ガウルはまるで聞く様子も無く「いつものこと」と流した。
「いずれにせよ、ちょっと様子を見よう。昨日はそのまま意識を失って何も話せませんでしたが、今朝クローナからは彼が意識を取り戻したことは聞いている」
「ふーふー、わらわが結婚かぁ……人間で年下……手を繋いで、チッスしえ、え、えちちもいずれ……えへへへ。って、違う! うむなのじゃ! そうえいば、マイトとシンユーも今朝挨拶に行くとか何とか聞いておったが、もう終わったかのう?」
そんなやりとりをしながら、二人は魔王城から出て、王都を見渡せる城壁の上を歩きながら、クローナの屋敷に向かい……
「さて、姉上。色々と不安はあるけれど、まず今はそのことは顔に出さず、魔王軍の将として、そして姉として、威厳と凛々しさを保ちながら、魔界の英雄にして我らの義弟妹を労おうじゃないか」
「う、うむ……そうなのじゃ、って、だからまだ義弟妹ではない! いや、わらわがむしろここから……っと、落ち着くのじゃ。ビークール、ビークールじゃ」
そして屋敷を前にして、軽く身なりを確認、咳払いし、表情を作り、いざ――――――
――♥♥♥♥♥♥♥♥ッッッ!!!!!
「「…………ふぇ?」」
屋敷の中から狂った獣の叫びが聞こえた。
いや、獣ではない。
しかし、その声には聞き覚えがある。
二人は固まり、互いに顔を見合う。
「「ッッッ!!??」」
そして、数秒の後に二人は「まさか!?」と至る。
屋敷の玄関ではなく、チラリととある窓に目をやる。
そこにある部屋から声は聞こえる。
窓はカーテンで締まっている。しかし、僅かに隙間が空いている。
「……うそ……なーのじゃぁ……」
「ま、待て、姉上! い、行ってはダメだ!」
ふらふらと夢遊病患者のように窓へと向かうトワイライト。
ガウルは止めようと……しながら普通にトワイライトと並走する形で窓に向かっていた。
そして、地上と魔界の歴史において名を残す六煉獄将の姫姉妹は、まさに不審者のように人の家の中をコソコソと覗いて……
「んん~~エルセ~、好き好き好き、好きなのです、好きがとまらないのです♥♥♥♥♥♥♥♥」
「「ふぇええええええええええええwびkhぁ!?」」
二人は見てしまった。
「こ、これは、あ、ああ、うそ、だよね? あれ、クローナ? っ、な、なんと、なんと淫ら!?」
「て、手ぇ繋いで、ちっすして、え、えちち……にゃ、にゃんじゃァ、アレ!? アレ、両手で恋人繋ぎで、って、あ、あれ、なんなのじゃ!? あれ、ちゅう? ちゅう? べろちゅばべろちゅばしとる、あれちゅう!? チュウじゃなくて、口と舌をむしゃむしゃ食べてるみたいな……あわ、あわわ」
「し、知らない、あ、あんな、可憐でお淑やかなクローナが……あんな、あんな妖艶な雌の顔を……だ、だけど……」
「知らんのじゃ、あんなクローナ……し、しかし、なんと、なんと……」
見たことのないものを見て全身をガタガタ震わせる六煉獄将の二人。
最近では大戦に出ても滅多に震えることすらないというのに、この時の二人は顔を真っ赤にして互いを抱き合いながら震え……
「「なんて、幸せそうな……」」
淫らで妖艶で、しかし幸福の中に居る女の顔をした妹に、二人はドキドキが止まらなくて――――
――あとがき――
腹一杯なので次回からまた少しシリアス。たぶん
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