第31話 幸福な朝

「ふわ~あ……ん~……エルお兄ちゃんおはよー」

「……おう、おはよう」


 魔界の薄暗い朝を迎え、目をこすりながらジェニがリビングに来た。

 俺は既に起きていたというか、夜通しというか、気づいたら朝になっていたというか……


「あらぁ~~~、ジェニィ~、おはよーございます~、今日も元気いっぱいガンバですよ~!」

「……ん~?」


 一方で、朝からテンション最高潮というか、キラキラ輝き、肌もツヤツヤというか艶艶で、昨日までは子供っぽさもあったクローナが、大人の色気というか、まあ、うん、その……


「ん~? なんか、エルお兄ちゃんとクロお姉ちゃん、変」


 その変化を幼いながらもジェニも感じ取ったようだ。

 俺とクローナが、若干昨日までと雰囲気が違うということを。


「あらぁ? ぜんぜん変ではないのですよ~、ジェニ~。ね? エルセ~♥」

「はぅ、あ……お、おお」


 急に話を振られて俺が冷静に返せるわけがない。

 朝からまともにクローナの顔すら見れない俺と比べて、クローナのなんと開き直った態度なことか。


「むぅ…………あやしい」

「あら?」

「むぅ……むぅ」


 そんな俺たちの様子にジェニは頬を膨らませて少し拗ねる。

 どうやら俺とクローナの間で何かあったのはいいとして、自分だけ除け者になっていると思ったのかもしれない。

 だから、ジェニは……


「ん、よいっしょ」

「あら!」

「あ、おい、ジェニ……」


 少し拗ねたジェニが、クローナの膝の上に座った。


「昨日はエルお兄ちゃんの膝で食べた……今日はクロお姉ちゃん! むふー!」


 鼻息をシュピーと出して宣言するジェニ。

 朝からお行儀悪い……と、俺が注意する前に……


「はぅ、あ、あうぅ、ううう! はい! ジェニはお膝です! ここはジェニの指定席なのです! ん~、ジェニ~♪」

「ん~~、くすぐったい、クロお姉ちゃん」

「え~、我慢なのですぅ~!」


 クローナはデレっとなった顔で後ろからジェニを抱きしめて、その髪に頬を摺り寄せる。

 

「はぁ~、戦ばかりで、立場上女としての幸せなど諦めていました……それが、なんということでしょう! 素敵なナイト様と巡り合い、そしてこれほど可愛く愛おしい妹まで……もう、この幸せは何があろうと守ってみせるのですぅ!」


 大魔王の娘であり、魔界の姫と思えないほどの蕩け切ったクローナに、俺も思わず笑ってしまう。

 同時に、かわいくて、そしてジェニも愛おしくて、確かに俺も「これは何があろうと守ってみせる」と自然と思ってしまう。



「おはようございます、ジェニ殿。朝一番の大魔フレッシュジュースと、大魔ベーコンエッグです」


「お~!」



 すると、そんな風に幸せを噛みしめていたところで、今日もスゲエ教育に悪そうな、ハート型ニップレスとフリルのエプロンという訳の分からんエロい格好のザンディレが、絵に描いたような美しい朝食の皿をジェニの前に置く。

 目を輝かせるジェニに対し、クローナはフォークを取って……


「はい、ジェニ。あ~ん、です」

「あ~ん……ん、ん、ん! おひいー!」


 ああ、もう可愛いなこいつら……


「婿殿。私がアーンをしましょうか? 口移しでも女体盛りでも、なんだったらまずは食べる前に一発口でヌ―――」

「ジェニの教育に悪いことは勘弁しろぉ!」

「おやおや、今更何をウブぶっているのですか? 昨日はいきなり天賦のアレで――――」

「だーかーらー!」


 ジェニとクローナの前だろうとお構いなしに尻をこっちに向けるザンディレ。

 食い込んだ紐下着が……この尻を俺は昨日……とはいえ、クローナもどこかズレているのか、ザンディレがこんなことをしても特に止める様子もなくジェニにデレデレのまま。


「ああ、エルセ。……んふふ……エルセとのイチャイチャは……隙を見たらやっちゃいますから、覚悟ですよ~」

「ぶっ!?」

「我慢できなくなってザンディレとイチャイチャしちゃうと私がヤキモチ妬いちゃいますからね?」


 と、クローナはまた小悪魔みたいに舌をペロっと出して冗談と本気の入り混じった言葉で俺を惑わしてくる。

 なんつーか、これからこの四人で毎日過ごしていくのかと思うと、幸せなんだが色々と不安がありそうな……



「そうだ、エルセ、ジェニ。今日は王都でお買い物しましょう! 必要最低限のものはザンディレに買ってきてもらいますが、本人でないと分からないお洋服とか下着とかもあるでしょうし、ついでに街をお二人に紹介します!」


「おー、お買い物!」


「あ、え、でも……いいのか?」



 ただ、やはり何事も問題なく……


「もちろんです。な~んにも問題ありません! 私も一緒ですし、いいですね?」


 心配しなくても大丈夫……というわけにはいかなかった。

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