第23話 幕間・大魔王の娘

『クローナ……そなたの好きにするがよい』



 暗黒馬に跨った魔界騎士に救われるといった幼い頃の乙女の夢とは違うものの、私を救ってくださったエルセに私は夢が叶ったような想いを抱きました。


 ジェニもとってもかわいいですし、これまでのお話を聞くとどうしても守ってあげなくてはならないと思いました。


 そして、エルセが故郷の女の子たちに対する当てつけだとしても、私と結婚すると口にしてくださったとき、もう私はダメになってしまいました。

 

 エルセとジェニとこれからもずっとずっと一緒に……


 勿論、テラの弟妹を、ましてや魔界の姫である私が家族として迎え入れるなど大問題になり、多くの反対があるのは目に見えています。


 でも私は必ずお二人を守ってみせます! 


 大魔王様。お姉さま。六煉獄将の一部が集う大会議室の前で私は顔を強張らせるエルセとジェニを守るように立って気合を入れました。


 そう、気合を入れていたのですが……



「え? ……わ、私の……好きに……ですか?」



 私の実の親である大魔王様は、魔王軍上層部を集めた会議にて念話で参加し、私にそのように告げました。

 これには隣のエルセもすごく戸惑っている様子です。

 しかし……



『クローナよ。そなたももう子供ではない。責任を取るのであれば、そなたの好きにすればよい。誰の弟であろうと子であろうと種族であろうと、そなたが己の意志で願い、その上で責任を持つと宣言している以上、余が口を挟むことではない。天界から堕天したザンディレの時もそうであったろう? ただし……その二人が王都で民たちから迫害されるようなことになろうと、余は一切擁護せぬ』



 正直、色々と私は言い争いになると想定していたのですが、こうもアッサリと受け入れられるとは思いませんでした。


「ちょ……ちょーまっていただきたい、大魔王様! わらわは納得せぬぞォ!」


 そのとき、勢いよく円卓を叩いて反対の声が上がりました。

 灼熱の赤い髪と、女性ながら長身。

 おっぱいもお尻もボボンとしている、私が憧れる女性としての美しさと色っぽさと大人っぽさを兼ね備えた方。

 下半身はおパンツのような少しエッチな黒い鋼の鎧と、黒い鋼の胸当てとマントという露出の多い大胆な格好。

 赤いマントを纏い、鋭く威厳に満ちた瞳で睨む、野性味溢れる武人にして、私のお姉さまにして……



『六煉獄将トワイライト……余の決定に不服か?』


「うむ! これは姉としてだけでなく、六煉獄将として、更には王家の一人として、わらわは賛同せぬ!」



 大魔王様の血を引きし私たち三姉妹の長女にして、六煉獄将に名を連ねるトワイライトお姉さま。

 お姉さまは……


「相手はあのテラの弟妹で、しかもキハクの話では随分とドエライ天賦の超人って話なのであろう? そんな奴をこの地に住まわせ、更にはクローナが結婚でお嫁さんとか心底羨ましいではないかこの野郎ってのは別にしても、もしそやつらがまた人間側に付いたらどうされるおつもりじゃ! 情報駄々洩れであろう!? いや、それどころかクローナが洗脳されてってこともある! わらわは反対だ! そもそも、彼氏どころか結婚など常識的にありえぬ! わらわだってまだであるぞ! チッスとかもうしたのか!? どんな味がした!? レモンって噂は本当かとか、色々と聞くべきアレ的なコレ的な……わらわは反対だ!」


 キハクに匹敵するほどの強すぎる力があるゆえに、ほとんどの男性が恐れおののいてしまうために色々と悩みを抱えられていらっしゃることで……とにかく婚期に恵まれず、そんなお姉さまが私とエルセのことを反対のようです。

 でも、確かにまだチッスもしてませんし、いきなりプロポーズだったので……色々としなければなりませんね……ちょっと恥ずかしいですけど……えへへ♥



「あ~~、緩んだ顔しておるぞ、こやつ! ふざけるでない、付き合い始めたばかりでイチャイチャ濃厚で今が一番幸せな時期とかそういうことか! 宿敵テラの弟妹は魔王軍にとって害になるから追い出すべきである! というより、テラとてキハクが討ち取ったわけであるし、普通は恨むべき対象であろう! おせっせとか、も、もうしてたりするのか!?」


「そうはさせません! それに、エルセとジェニはもう人間のために戦う気はないと言っています。それに、エルセは言っていました。私と結婚して子供を作る運命だと!」


「こ、子作り!? なんたることじゃ! まだうら若きピチピチガールのわらわを、お、お、叔母さんにする気であるか!」



 気づけば他の出席者や大魔王様をそっちのけで、私とトワお姉さまの口論になってしまいました。

 お姉さまは頑なにエルセとジェニの身柄を私が保護することに反対の様子。

 ただ、その時でした……



『テラの弟エルセよ……一つ問おう』


「「「「「ッッ!!??」」」」」


 

 大魔王様が静かにエルセに問いかけて、その瞬間会議室の空気が一変しました。



『今の貴様の望みはなんだ?』


「え……お、俺の望み?」


『妹と共に平穏に過ごすことか? クローナを我が物にすることか?』



 それはある意味でエルセを試している問いでもありました。

 そして、この場に集う者たちの前で虚偽は不可能。

 エルセの本心と本質を問い、その内容によっては……


「俺は――――」


 するとエルセは迷いなく……



「ジェニを守り、その上で……帝国のクソ野郎どもをぶっ潰すことだ!」


「「「「「ッッ!!??」」」」」



 王国での復讐で終わりではなく、まだその先の真の黒幕への復讐を口にしました。……私と結婚して子作りじゃないのですね……むぅ……

 


『クローナから帝国の工作活動は聞いたが……とはいえ、帝国も戦力が大幅にダウンすることを承知で、テラが人類結束の輪を乱すと判断したうえでの苦渋の決断だったのかもしれん。つまり、貴様には酷だが帝国側の事情も――――』


「兄さんが勇者として、人類連合の一員として、正しかったか正しくなかったかなんて、正直どっちでもいいんだ! 俺は勇者の弟であっても、俺は勇者じゃねえ!」



 って、エルセ!? 大魔王様の話を遮って……それは危ないですよぉ!

 だけれど、エルセは止まらず……


「ただ、兄さんの考えややり方に間違いがあると思っているなら、そんときゃ正々堂々と正面からやりゃいいんだ! キハクが兄さんと正面からぶつかったみてーになァ! だが、帝国はそれをしなかった。クソ野郎どもを唆し、その裏でコソコソ工作し、そして自分たちは知らん顔……ざけんな! 兄さんに勇者失格の烙印を押し、仮に残った奴らが正しい勇者たち、人類連合の正義だろうと関係ねえ! ならその正義を語る野郎をぶっ潰してやりてぇ! 帝国の皇帝と帝国の八勇将をぶっ潰してやりたい! 正しい正義だの大義だの、俺の知ったことか!」


 感情熱くして、己の思うが儘のことを叫びました。

 それは、あまりにも私情丸出しのために、軍として民や世界を背負う兵たちにはふさわしくないものかもしれません。

 しかし……



『ほう』


「ほほう……」


「ふむ……」


「ひははは」



 エルセの回答はあまり悪い印象ではなかったのか、大魔王様だけでなくこの場に居た方々の空気も再び変わった感じがします。

 そして……

 


「ひはは……お~、その意見が本当ならいーんじゃないですかァ?」


「「?」」



 そのとき、六煉獄将の一人にして魔王軍の参謀長が愉快そうに笑いました。


「参謀?」

「ひははは、だから~、テラの弟妹たちが、帝国を潰すってこと……もしそれができちゃうんなら本当に認めるしかなくないすか~?」


 歪んだ笑みと慇懃無礼な振る舞いが特徴的な彼の意見、それは……



「人類連合の盟主にして、八勇将を三人も有する最強国家……さらには次世代もどんどん育っている……その帝国をぶっ潰すのに貢献するんなら、もうそれは認めるしかなくないすか? つーか、俺は認めちゃう」


「「ッッ!?」」



 そして仰る通りです。

 私情や心構えは抜きにして、人類連合の心臓とも頭ともいえる帝国をもし打倒することができれば、もはや人類連合は壊滅的なダメージを受け、それはもう遥か昔より続いた人類と魔界の争いを勝利に導くほどの戦果と言えるでしょう。


「キハクの旦那の話では、その弟妹の才能はテラ以上……なら、戦力として利用しちまった方がよくなくなーいすか?」


 それほど魔界に貢献するような存在であれば……という様子で参謀長の言葉に次々と頷く声が上がっていきました。

 そして……


「たしかに、それが本当なら……それを叫べるだけ坊やたちが本当に強いのなら……ね。僕が試そうかな?」


 そう言って、私のもう一人の『お姉さま』が立ち上がりました。







――あとがき――


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