第二章

第19話 魔界メイ奴隷

 魔力を回復させたクローナの放つ転移魔法で、俺とジェニは魔界へと連れて行かれた。


 そこは、魔王軍の本拠地とも言える魔界の王都。

 周囲を山と巨大な外壁に囲まれた中に建設されている巨大な要塞都市。


 生まれて初めて見る魔界は、おとぎ話などで聞いて想像していたもののように、陽の光のない薄暗い暗黒の世界。

 唯一想像と大きく違ったのは、魔界は常に殺戮や血に飢えた獣のようなものが争い続ける地獄のような場所かと思っていたが、少なくとも俺とジェニが連れて行かれた魔界王都の様子は全然違ったこと。

 発展ぶりや文明や生活環境は地上の人類よりも進歩しているかもしれない。その上で、人の姿ではない魔族や獣人が普通に商いをしたり、子供たちが王都の通りを走り回って遊んだりと、穏やかで平和な光景が見られた。

 


「さぁ、今日からここがエルセとジェニのお家です。遠慮なんてしたら承知しませんからね♪」


「で、でか……」


「おぉ~……」



 そんなクローナの屋敷は、王都の中ではなく、王都の周囲を取り囲む外壁の上に建てられている。

 屋敷からは王都を一望することも、王都の外の広大な山々や大森林を見渡すことができる。



「円状に囲まれた外壁の東西南北にはそれぞれ私と二人の姉が東、西、南に屋敷があり、最奥の北には魔王城があります。王都の上空は常に巨大な魔法結界で鉄壁に守られており、民たちも許可なく外壁の上まで昇ることもできませんので、ここなら慣れるまでエルセとジェニも安全です♪」


「そ、そうか……」


「おぉ~……」



 兄さんが勇者になってから建ててくれた王都の高級住宅地での俺たちの屋敷もかなりのデカさだったんだけど、何だかスケールが違い過ぎてしばらく俺とジェニも圧倒されっぱなしだった。


「そうだ、お二人ともお腹空いているでしょう! ゴハンにしましょう! 『ザンディレ』~!」


 クローナがそう言って手を叩く。

 すると、突如禍々し空気が俺たちを包み込み、同時に鋭く尖った殺気を放つ何者かが俺たちの前に現れた。



「はは! クローナ様、おかえりなさいませ!」


「ええ、ごきげんよう。留守番ご苦労様です。二人とも、紹介します。屋敷のメイドのザンディレです」


「「ッッ!?」」



 現れたのは一人の女。

 長い黒髪を靡かせて、黒い翼を背中から生やし、豊満で魅力的な肉体を……メイド服? いや、確かにフリルのエプロンと丈の短いスカートを穿いているが……いや、これメイド服? や、っていうか!


「はだかー?」


 言葉を失う俺と違い、見たままのことを口にするジェニ。

 そう、現れた女はとんでもない格好だった。


「む? 人間……一応念話で報告は受けておりましたが本当に……」


 黒いブーツと黒いガーターで腿まで覆い、上半身は両肩、臍、更には胸……胸が!? ハートマークの何かで大事な『先端』の所だけは隠しているけど、両胸を露出したとんでもない改造メイド服!?

 しかもその首には首輪をつけている。

 なに? 何の店?

 エロ過ぎて思わず退いてしまう……


「んもう、ザンディレ、そのようなエッチな格好はいけませんと言ったではないですか~」

「いいえ、クローナ様。これが卑しい奴隷である我が身分に相応しき正装です。最低限のものだけ身に着けて、隠しているものなどないという証明でもあるのです」

「あなたも家族なのですよ~?」

「滅相もありません。私は天界より堕天した卑しい家畜以下の雌。その私に寛大な慈悲と女神の微笑で手を取ってくださったクローナ様の道具、奴隷としてお仕えすることが私の至上の喜びであるのです」


 歪んだ目で発情したように微笑んで膝を着くザンディレという女……もはや信奉というか崇拝というレベルでクローナを崇めているように見える。

 そして何よりも……


(ってか、こいつ…………強くね?)


 少なくともキハクと同様に底知れない強さを雰囲気から感じ取れた。



「とにかく、ザンディレ。今日からエルセは私の婚約者、ジェニは私の妹としてこの屋敷に住みます。あなたの負担も増えますが、是非ともよろしくお願いしますね」


「承知しました。クローナ様が選んだ相手であれば、たとえ肥えた豚であろうとも私のような奴隷が口出すことは無く、ただ従うのみにございます。それどころか、人類のカス共に捕らわれて穢されそうになったクローナ様をお救い下さった救世の婿殿、そしてジェニ殿には感謝を。今後はお二人も私を道具として何なりと命じて頂きたい」


「「……え……」」



 そう言ってザンディレが俺とジェニに頭を下げるが、正直困ってしまう。

 兄さんが八勇将になって生活が裕福になっても、特に俺たちは家でメイドを雇ったりもしていなかった。

 今まで家の掃除や食事とか三人で協力してやってたし、それに姉さんも俺たちの家に来るようになって色々と家事を勉強したりしていたので、俺たちはメイドというものの経験がない。

 それなのに、メイドを超えて奴隷やら道具やらと言われても戸惑ってしまう。

 さらに……


「その証として、お二人とも、手を」

「?」


 ザンディレが俺とジェニの手を握る。すると、突如妙な魔力が流れ込んできて、俺たちの手首に変な紋様が刻まれた。


「え? ちょ、何だよコレ!」

「……試しにその紋に魔力を集めて私に向けて欲しい」

「……え? え? ……こう?」

「そう! あ、あ~~~~~~~~~~~~~ん!!??」

「うぇっ!?」


 言われたとおりのことをしたら、ザンディレの首輪が光、そのまま悶え始めた。

 いや、何で!?


「な、な、なん、こ、これは……?」

「はあ、はあ、……これは奴隷反逆防止の首輪と術式。この首輪をつけられたものは、紋様を刻まれたものを主とし、一切の攻撃を許さず、更には言うことの聞かない奴隷にはお仕置きシステムが―――」

「ちょぉ!? こ、こんなのを着けるなよぉ! いやいや、何だよ、その人権無視なシステムは!?」


 喘いだ表情で説明されて思わず更なるドン引き。

 こんなものが魔界に?



「ええ、酷いですよね、エルセ。私もこれは嫌いなのです……ですが、今の魔界の法律上では……それに、ザンディレが強く望んでしまい……」


「当然です! かつて同胞を裏切った私のクローナ様への忠誠心に一点の曇りのないことを僅かでも証明できることであれば何でもするのが私の生きがいであります」


 

 そして、こんなことを自らの意志で熱望するとは……ヤバいな……え? 今日からコレと生活するのか?


「……おぉ~……えい」

「ふぁん!?」

「えいえいえい」

「やん、あ、こ、こら、ジェニ殿、ふぁん!?」


 と、そこでジェニが興味深そうに試しにお仕置きシステムを作動させると、ザンディレがまた悶えて地べたを転がった。

 ちょ、スカート、中、超小さい黒パンツ!? 喰い込み、見え!? いや、ナニコレ!?

 って、そうじゃなくて……


「こらァ、ジェニ、やめろ! やめなさい! お前はこんなこと一生知らなくていい!」

「もう、ジェニ~、駄目です。ザンディレは形式上は奴隷でも家族の一員なんですから!」

「むぅ……わかった……やらない」

「んほぉは♥ は、はあ、はあはあ……妹殿はなかなか有望な素質のようだな」


 いかん。本当に気を付けなければジェニが色々と歪んでしまう。

 というか、こいつはこいつで悦んでなかったか?

 いずれにせよこんなエロいヤバいメイドとこれから生活って、俺も色々と気を付けないと……



「とにかく、ザンディレはお二人にゴハンと、お二人の部屋の準備をお願いします」


「承知しました」


「エルセもジェニも今は復讐のことは忘れて心と体を休めてください。今日は休んで、そして明日には二人のことを皆に紹介します。」


 

 とにかく、こうして俺とジェニの魔界での生活が始まった。

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