第17話 幕間・鬼将軍

 もはや戦にはならなかった。

 それほど容易く全てが終わった。


「キハク将軍! 鬼人侍部隊が既に敵の駐屯の騎士団を制圧しました。市民もほとんどが武器を持たずに降伏しております」

「そうか……」

 

 部下の報告を聞き、流石の吾輩も色々と戸惑う。

 長年に渡り人類連合との戦争を繰り広げてきたが、連合加盟国で八勇将すら輩出した王国の王都をこうもアッサリと陥落することができるとは思わなかった。

 先の大戦で国力の低下なども色々と理由はあるだろうが、やはりテラの弟が大暴れしたことにより奴らもどうすることもできなかったのが大きい。



「皮肉なものだな……あのテラが命を懸けて守ろうとした国と民たち……それを滅ぼしたのは兄を愛する弟……」


「はい……そして、皮肉であると同時に我らにはとてつもない幸運とも言えました。拙者もあのテラの弟の戦いぶりを見ておりましたが……正直、恐ろしかったです」



 その言葉に吾輩も頷いた。

 


――動くこと雷霆の……



 エルセに関しては間違いなく数年以内には、八勇将や六煉獄将と渡り合い、五年もすれば……

 それに、森でのあの攻防、姫様が割って入られたので不発であったが、もしあの時感じた異様な力を受けたら吾輩もただでは済まなかっただろう。

 

「ああ、誇張無しでエルセの戦闘の才能は兄より上かもしれん。妹の魔法センスや魔力量も常識外れ。二人とも間違いなく将来はテラを超え、人類の勇者となり、我が魔王軍に牙を向いていたであろう。もしテラが存命であり、あの弟妹がテラと三人並んでいる姿を想像するだけで戦慄する」


 恐らくあの三人を同時に敵に回せば、何百何千、それどころか何万もの兵を失っていたであろう。

 それどころか、大魔王様にまで到達していたかもしれぬ。


 しかし、人類共のくだらぬ醜いメンツ争いに巻き込まれ、その未来は無くなった。


 結果的にテラは死に、そしてあの弟妹ももはや勇者としての道を歩むことは無いであろう。

 その上、クンターレ王国までこうもアッサリと陥落できた。

 これは紛れもなく人類に大打撃であろう。

 とはいえ、なかなかこれはこれで頭を悩ませてしまう。

 順序がでたらめになっていきなり王都を取ってしまったからだ。



「して……どのようにします? 捕虜の数が多すぎますし、我々は近隣にある都市や砦などを陥落させずにいきなり王手を取ってしまったため、ある意味でここは陸の孤島。魔王軍の大軍を呼び寄せてここを完全に我らの領土にするにも、流石に人類連合も黙っていないでしょう」


「だろうな。吾輩もせいぜい、あやつは恨みのある貴族を討つぐらいになると思っていたが、まさか王都を丸ごと陥落させられるとまでは思わなかった」


「ええ。仮に捕虜を全滅したとしても、あまりやり過ぎると返って人類に怒りの士気を上げてしまうことに……」


「分かっているが……ある程度の恐怖は必要だ」



 そう、本来ならばありえぬことだ。吾輩も長年魔王軍の将軍として人類と交戦してきた。

 人類との争いは所詮は地上の領土争いであり、それを奪い、時には奪われ、その繰り返しである。

 時折、大都市や国を亡ぼすことはあるが、それは周辺からジワジワと領土を奪い続けた果てでの滅亡であり、そこに至るまで長い時間を要する。

 しかし、昨日たまたまテラの弟と会い、地の利を教えてもらって軍を誘導し、そして一日で人類の中でも中堅に位置する王国の王都を陥落させてしまったのだ。

 陥落させた後の準備が何もできていなかったので、何とも悩ましいことになってしまった。

 だが……



「……これを利用して、人類連合に亀裂を入れるか……」


「?」



 王都を我らの領土にしようとしても、その周辺が魔王軍の領土ではない以上、守り切れるものでもない。

 むしろ、周囲を囲まれてしまう恐れがある。

 そして民を皆殺しにしてもそれはそれで問題になる。

 ならば、奴らを精々利用させてもらおう。


「民衆全てを捕虜にする必要はない。奴らには働いてもらおう」

「それは、奴隷にすると?」

「いや、奴らには……存分に世界に流布してもらおうと思ってな、今回の全てのことを……帝国の行いを……奴らにはその証言者として散ってもらおうと思ってな」

「はい?」


 やるべきことを決めた。

 すなわち……


「キハク大将軍! 別動隊より報告! 宮殿の隠し通路にて、国王を発見! 捕らえたとのことです!」

「……そうか……」


 だが、後始末の前に完全にこの国の滅亡を象徴することを行わねばな。



「今すぐ国王を連れてまいれ。尋問して可能な限り情報を吐き出させよ。そのうえで――――民衆たちを広場に集め、その前で刎ねろ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る