家探しをしていたら恋人ができる百合

川木

住宅の内見

 いつものんびりしているララだけど今日は珍しくやる気をみなぎらせていた。今日は春の大学入学に合わせて住むことになる住宅の内見をする約束の日だ。遅刻上等のララが何故か今日は気合いたっぷりで五分前に待ち合わせ場所にきていたほどの高いモチベーションで挑んでいる。

 営業者にのせてもらう移動中すらじっくりと間取りや条件を読み込んでいるほどだ。そして家につくと一通り見せてもらいながらも、あれこれとこまごまとしたことを確認していく。


「日当たりは確かにいいけど、洗濯物が外干しなのはちょっと困るわね」

「大学から近いとはいえ、裏通りばかりでちょっと街灯が少ないのが不安かしら」

「うーん、備え付けのエアコンが古すぎない?


 とずばずばと評価を下していく。歯に衣きせぬところはいつもとは言え、判断がこんなに早いのも異常だ。


「ちょっと、ララ、どうしたの? いつもと違うと言うか、真剣過ぎない?」

「ん? そりゃあ、住む場所はもし駄目でもすぐに変えられるものでもないし、真剣になるでしょ?」

「それはそうだけど、私の家なのに?」


 幼馴染のララとは腐れ縁で大学まで同じところに行く。なので私の内見に自分も行きたいと言われて違和感はなかったし付き添いをOKしたけれど、まさかこんなに予習までして真剣に望むだなんて想像もしてなかった。なんなら寝坊して来ないかと思っていた。


「ロロの家ってことは私の家みたいなものでしょ? 大事なロロの家をちゃんと確認しないと危ないじゃない。ロロに何かあったら私、死んじゃうわ」

「……いや、まあ、いいけど」


 相変わらずこの幼馴染は感情表現がオーバーすぎる。昔からすぐに好き好き大好きと言ってはばからない女だったけど、高校くらいからさらに言い回しが大げさになっている。

 悪い気はしないけれど、なんというか、そこまで言われるといくら幼馴染とはいえちょっとドキッとしてしまうので、少しは自重してほしいのだけど。


 そう思いながら内見を続け、最後のチェックをした後に何故か営業車はでは次に行きますねと普通に次の物件に出発した。


「え? 次ですか?」

「あ、私が探しておいたやつね」

「え?」


 いくらなんでも探すまでするか? いやまあ、そもそもついてきたのはララも独り暮らしするから自分用にもほしいと思ってのことだろうけど、人の予約に便乗しすぎだろう。

 私がいないときすら我が家に入り浸っているので、きっとうちの親から聞き出して連絡をしたのだろう。ララは普段いい加減に見えてそう言う根回しは妙にしっかりした女なのだ。


 呆れながらその物件を見に行ったところ、とてもいい物件だった。バルコニーがあって日当たりよし、浴室乾燥機能付き、風呂トイレ別、キッチンダイニングに寝室が別で、どちらもそこそこ広い。その他防犯面などもしっかりしている。


「うん、やっぱりいいわね。ロロ、どう思う?」

「いや、まあ、いい部屋だと思うけど」


 そりゃあ住めるならこんな部屋がいいだろう。問題は私の予算では収まらないと言うことだ。


「でしょ。ロロなら気に入ると思ったんだ」

「私ならって、いや、うちの予算こえてるから無理だし。ララのとこ結構出してくれるんだね」

「いや、うちも予算はかわらないよ。でも二人で住んだらどう? 二人なら予算は倍。ここでも余裕で住めるよね」

「えっ」


 その発想はなかった。悪魔的発想と言ってもいい。家を出て自由な独り暮らし、独り立ちをして社会に出る準備期間となる大学生時代。それをまさか二人で住むなんて。

 確かにララと住めば足りる。ララとなら一緒に住んでも苦痛はないだろう。しょっちゅううちにも泊っているし。


「いや、でもララ、この間やっと受験生おわったし恋人つくって青春したいとか言ってたでしょ。私は嫌だよ、ララ以外の人間が家に入り浸るのは」


 ぱっと聞いていいアイデアな気がしないでもないけれど、でもそれは今まで通りの交友関係だったらだ。大学生になり、新しい友達や恋人ができて、お互い知らない人が帰ったら家にいるとか、普通に嫌だ。


「えー、それ通じてなかったの? 私結構アイコンタクト頑張ったつもりだったんだけど」

「ん? どういうこと?」


 何故か驚いてからジト目で見られてしまったけど、言っている意味が分からない。首をかしげると、やれやれとララは肩をすくめて、私の肩をだいて耳元に顔をよせてきて、内緒話のように小さな声をだした。


「だからさ、つまり、ロロっていう恋人がほしいなってことだったんだけど」

「えっ」


 思わずまじまじと至近距離でララの顔を見ると、真っ赤になっていた。それを見て私までつられてしまう。


 二人暮らしの物件に決まるまで、あと一日。

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