大学四年生
キクジロー
未知への不安
私は、皆と同じ様に、平凡な悩みを抱えている。
言わずとも分かると思うが、念の為に明らかにしておく。
それは未知への不安。
まだ知らないということは、これから知ってしまった場合、自分が今の自分でなくなる可能性がある。
新しい知識や概念を知ってしまった以上、何か選択の場面に出会ってしまった時には、今の自分よりも多くの選択肢が生まれてしまう上に、その選択肢の中には、自分にとって最悪な結末を呼び起こすかもしれない。
そう考えると、はたして、知識を取り入れるのはいいことなのだろうか?
自分よりも経験豊富な大人達は、私に良い風を吹かせてくれるのだろうか?
私は、それが怖くてたまらない。
この時代、ありとあらゆる知識を取り入れろと、周りの大人達は私達大学生に諭してくる。
しかしそれは、悪く言えば、必要の可否を判断できない状態である未熟者が騙される可能性も十分にある。
むしろ、その結末の方が多いのではないだろうか?
私はまだ逆転不可能まで陥った人間をこの目でしかと見たことは無いのだが、騙されるととことん底まで突き落とされるのは目に見えている。
これが少々大袈裟なのは十分自覚している。
だが、人生の岐路を決めるこの段階では、これくらい用心でないと社会人としては成り立たなくなりそうだ。
これから、数カ月後に入社する会社では、きっと今以上に未知の領域が私の世界に食い込んでくる。
凄く不安。
その一言に尽きる。
なぜ周りの人間は、さも希望を持った涼しい顔で未来を待っているのだろうか?
私の友達は、この大学四年生の夏に、もうすでに軽々しく進路を決めている。しかし私はそれより少し遅れて、ついこの間、秋ごろに就職先が決まった。
別にさぼっていた訳では無い。
三年生の頃からインターンシップに積極的に参加して、人一倍の企業研究をしてきたはずだ。
だがその結果は私の想像とはかけ離れており、当初よりますます進路に対する悩みが増えてしまった。
それは、懸命な社会人が私の目には、使命感に駆られたゾンビのように見えたこと。
ここで言う使命感とは、決して、責任問題とかそういった話ではない。
このくらいの歳ならば、このくらい出来ていないといけないという世間の常識が、一人間を誰かの飾りにしてしまうことだ。
会社、妻、子供。
これらは、他者への普通であれという目を、無意識にしてしまう。
その結果、視線を向けられた人間はその人の奴隷のように常識の床を這いつくばる。
私も、あと数年後には誰かの装飾品になっているのだろうか?
大学四年生 キクジロー @sainenn
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