訳有り物件激辛系

たたみ まいるど

一番安い物件


 とある事情も有って、不動産屋さんに一番安い物件をお願いします。

 と言って紹介されたのは今、目の前にある古民家をリフォームした綺麗な平屋だった。

 内見に来るまで小汚いオンボロな物件を想像していたのに意外な物件だった。


「こちらがうちで一番安い物件になります。寝室に旅館みたいな縁側があってオススメですよ、安い理由も気になるでしょうが……最後に見る部屋で説明します、入りましょうか」


 言われるままに不動産屋さんと一緒にその平屋に入ると外と同じように中も綺麗な状態だった。



 一通り家の中を見て回り最後の書斎の部屋に入ると、身体がうっすらと透けている妙にはっきりと見える金髪の若い男がいた。

 ボクシンググローブ程の大きさに腫れた唇で異様なハイテンションでベラベラと話している。


「はいどーも、今日はこの象も死ぬ激ヤバ激辛麺をレビューしたいと思います!見た目は普通の焼きそばですね、象も死ぬとか食べるのに勇気が要るなぁ……ではまずは一口!」


 若い男が麺を一口食べるような素振りをした瞬間目をカッと開き


「……ヤバい!これ!ヤバい!!ヤバい!ヤバ!ヘビー級ボクサーが!五十人くらい口の中で爆発してる!!味とかそんなのじゃない!爆発!!ヘビー級ボクサーが!ヤバい!ヤバい!これは象も死ぬ!!死ぬほど頭痛い!!これは流石に食べた瞬間に死ぬわ!!!!見て!?この腫れた唇!ボクシンググローブみたいになってるじゃん!見て?このうっすら透けたイカした身体ボディ?死んじゃってるよ?象も死ぬんだからそら人も死ぬよねガハハ!って売るな!こんなもん!!」



 俺が冷や汗を垂らしながら絶句していると不動産屋さんが営業スマイルで語り出した。

「見えましたか?……はっきり見えますよね、あれが安い理由です。この部屋で激辛麺を食べて亡くなった配信者の住人だった方の地縛霊です」


「あんなにはっきり見える物なんですね」


「お祓いをしに来てもらったお坊さんが言うには誰にでもはっきり見える珍しい霊でお盆まで放って置けば実害も出ずに多分消えるらしいです。はっきりと見える原因は恐らく食べた激辛麺があまりにも辛すぎて後味のショックだけで魂が死と蘇生を繰り返してるせいらしいです」


「……お盆まで我慢すれば多分消えるんですよね?縁側付きの寝室が気に入ったのでここにします」



 俺はこの物件に決める事にした。

 安くて綺麗なだけでも十分なのに旅館みたいな広い縁側が気に入ってしまった。

 それにお盆まで我慢すればこの幽霊も多分消えるらしいので、この部屋はそれまで使わなければ良い。

 問題があるとすれば俺がもう倒産してしまった象も死ぬ激ヤバ激辛麺を作ったメーカーの元社員だと幽霊にバレた時に幽霊がどういう反応をするのかだけが心配だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

訳有り物件激辛系 たたみ まいるど @tatami01ld

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ