死体役令嬢に転生したら黒幕王子に執着されちゃいました

マチバリ

プロローグ

 

「私、あと一週間で死ぬ!?」


 その日、メルディは突如として自分の役割を思い出した。

 前世で平凡な喪女OLだったときにプレイしていた殺伐乙女ゲーム「贄嫁は悪魔と踊る。」に転生していることを。

 そして自分はそのゲーム冒頭で無惨に死体として登場する令嬢だということに。


「い、いやだぁ!! せっかく転生したのに死ぬなんていや!!」


 メルディは自室のベッドにゴロゴロと転がりながら叫び声を上げた。



「贄嫁は悪魔と踊る。」略して「はとる。」

 西洋風の世界で貴族の子どもが集う学園を舞台としたオカルティックホラー乙女ゲームだ。


 物語は主人公アマリリスが学園に入学した夜、寮で同室になった令嬢の死体を見つけるところからスタートする。

 何故令嬢は殺されたのか? そこからはじまる学園内の怪奇現象。アマリリスはイケメンの学友たちとともに謎を解きながらイベントをクリアし、自らに襲いかかる恐怖を乗り越え攻略キャラとの愛を育む。ただし、油断するとキャラクターが軽率に死んでしまうのでプレイには鋼のメンタルが必要。


「うっうっ……無惨に死体として転がるスチルしかない死体役に転生するなんて……! せめてもっと安全圏のモブになりたかった……!」


 アマリリスの同室となり死体として発見される令嬢こそ、他でもないメルディなのだ。

 ショッキングな死体として単独スチルこそあるものの、キャラデザも無ければセリフもない。その後も会話にちらっと名前が出てくるだけ。どれだけ周回プレイをしても冒頭の死体スチルでしか登場しないので、ファンからは「死体令嬢」という不名誉な呼び名をつけられている。

 しかもゲームの後半になってわかるのだが、メルディは事件に巻き込まれて殺されただけで何の非もない完全な被害者である。


「学園に入学しない? いや、それは無理か……」


 学園の入学式は一週間後。

 前世の記憶を思い出していなかったメルディはそれはそれは努力して入学試験に挑み、無事に合格したのだ。学園は超名門で家柄身分だけではなくそれにふさわしい努力と才能が無ければ入学することができない。裏を返せば学園に入学すればそれだけで素晴らしい未来が約束されると言える。

 特に後ろ盾のない男爵家の令嬢に生まれたメルディは、せめてよい相手に縁づいて両親を安心させようと頑張ったのに。


「その努力が無駄になるなんて」


 いっそ試験に落ちていれば。

 そんな後悔が湧き上がるが時すでに遅し。

 入学金だって払ったし、部屋にはとても可愛い学園の制服が届いている。

 さすが乙女ゲームといったグリーンを基調としたとても可愛いデザインの制服に袖を通すのをどれほど心待ちにしていたことか。

 だがメルディは知っていた。一週間後、自分はこの制服を着て無惨に殺されると。


「何が悲しくて死に装束を眺めて生活しなきゃいけないのよ」


 わざわざトルソーまで用意して飾られている制服を見つめながら、メルディは深いため息を吐き出す。

 悲しい。しかし現実は非情だ。泣こうが喚こうが時間は経つ。


「いや! まだ間に合うかもしれない。だってまだ一週間あるんだもの!!」


 そう。まだ一週間あるのだ。

 入学回避はできなくても何か打つ手はあるはずだ、と。


 最善なのはアマリリスと同室になることを避けることだ。

 メルディが殺されるのはアマリリスと同室だったからという、ただそれだけだ。同室にならなければ、少なくともメルディは死亡フラグを回避できる。ただ、その場合でもあの凄惨なゲームは開始してしまうのでそれはそれで困るのだが、とりあえずは我が身を守りたい。


「よし、学園に忍び込もう」


 入学一週間前ともなれば、すでに部屋割りが決まっていてもおかしくない。

 学園にコッソリ侵入し、部屋割りリストを書き換えてしまえばいい。


 善は急げとばかりにメルディは「入学前に学園を見学したい。じゃないと不安で入学できない」と入学前に突然ナーバスになったふりで家族を説得し、春休み真っ盛りの学園に向かったのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る