俺が彼女を寝取るまで〜未来で酷い目にあった初恋の子がいたので今度は俺が幸せにする〜

クローバー

第1話

後悔ってのは大きく二つに分かれると思う。

 

 一つは自身の目の前で起こった事に対するもの、もう一つは自身の知らないところでいつの間にか起こるものだ。

 

 なんでこんな話をしたのかって? 俺も今、後悔してるからかな。

 

 人生で一番の後悔と屈辱と怒りが湧き上がっている。

 

 コレに関わった奴等を全員拷問して、大切なものを目の前で少しずつ壊し、心を二度と立ち上がれないほどまでに粉々にして殺してやりたいほどに。

 

 俺は床に膝をつく。コンクリートの冷たい感触が伝わってくる。

 

──ああ、彼女はずっとこんな地面にいたのか。

 

 心が痛い。はらわたが煮えくり帰る。

 

 俺は彼女の手首につけられた軟禁付きの鎖をとった。暴れた跡だろうか、手首には青紫のアザのようなものがある。しかし、それも治りかけのものだ。

 他にも身体中に浅黒いアザの跡が痛々しいほどについている。首に切り傷まである。

 

 どのくらいの期間、ここに居たのだろう。

 

 コンクリートの壁、床、ベットすら無くあるのはトイレだけ。どんな刑務所よりも酷い牢屋だ。

 

 俺は裸の彼女に来ていた上着を着せ、持ち上げる。

 

「ゴメン」

 

 思わずそんな言葉が漏れた。謝っても彼女から反応が返ってくる事はない。

 

 意識はある。だが、心が壊れてしまっているのだ。

 

 数多の暴力、恥辱、調教を受けて彼女は壊れてしまった。持ち上げている今でも男の性臭が鼻のつく。気持ち悪いとは思わない。彼女が受けて来た拷問紛いのものに比べればこんなもの屁でもない。

 

「巳波ひな……遅れてごめん。俺にこんなこと言う資格すら無いんだけど、ごめん……ごめんな……」

 

 巳波ひな。グレていた学生時代の中でも鮮烈な記憶として残っている初恋の相手。コイツには彼氏が居たし、そもそもこんな俺と関わっちゃいけない人種なんだと心の中で線引きをしてしまっていた。

 

 ああ、後悔だ。あの屑から奪っておけばよかった。任せたら駄目だった。そんな思いが頭の中を回り続ける。

 

 もう、遅い。起きてしまった。戻る事はできない。

 

 彼女の幸せが、あの屑の隣でしか得られないんだと、思ってしまった。違かった。あの屑は巳波ひなの疫病神でしか無かった。

 

──あの時に殺しておけばよかった。

 

 俺は建物の廊下を、彼女を優しく抱えながら歩く。出口へと一歩ずつ。

 

──血溜まりに足を突っ込む。

 

──鉄の匂いが鼻に付く。

 

──肉塊を踏み潰す。

 

 この建物の中で出会った連中は全員一人残らずに殺した。

 

 今思うと勿体無いことをした。コイツらはもっと苦しめたはずなのにな。

 

 建物を出た俺はあらかじめ呼んでいたタクシーへと乗り込む。彼女を優しく席へと座らせ、俺も乗り込む。

 

「お客様。何処まで──「ここで一番大きい病院まで」は、はい」

 

 銃口をタクシー運転手へと突き付ける。夜で彼女の状態自体は分かりにくいとは思うが、もしもの為だ。俺はまだやらなくちゃいけないことがある。

 

 タクシー運転手の荒い息遣いが聞こえる。どうやら病院に着いていたようだ。

 

 大きな病院だ。深夜外来流行っているようで正面からすんなりと入る事はできた。俺が病院に入ると受付にいた看護師らしき人が駆け付けてくる。

 

「彼女、治療して下さい」

 

 看護師は一瞬戸惑ったものの、さすがプロなのか医師を無線ですぐに呼んでくれた。俺は財布から一つの通帳を取り出す。

 

「俺、行かなくちゃいけないんで……通帳の口座番号は──」

「行かせるわけないでしょ!? 貴方完全に重症よ!?」

 

……大袈裟だな。こんな怪我彼女に比べたらなんて事ないのに。

 

「じゃあ、よろしくお願いします。あ、あとできるだけ女性の医者の方に治療を頼みます」

 

 俺はそう言って病院を出る。看護師の人が何かを話していたが全て無視した。

 俺はタクシー運転手に目的地を伝える。

 

 顧客の機密情報が載っている資料。俺はそれを見つけていた。

 

 全員殺す。もう、彼女を傷つけさせるわけにはいかない。アイツらはこの世に居てはいけない鼠だ。

 

──三日後。

 

 とあるニュースが流れる。

 

 史上最悪の殺人鬼。たった二日で殺人一〇二人、殺人未遂二二一人の殺傷沙汰を起こし世界中を畏怖させた。

 

 宮内拓巳が死体となって発見されたと。

 

──────────────────

 

「は?」

 

 目を覚ました。頭の中には疑問と強烈な違和感に襲われていた。

 

 俺は眠りについた。二度と目が覚めることがない眠りに。

 

 だが、起きた。

 

 しかも見覚えのある天井が見える。何十年も見続けた自分の部屋の天井。一瞬天国か夢でも見ているのかと思ったが、全身にへばりつくような嫌な汗はコレが現実だと告げている。

 

 タイムリープ?

 

 俺は頭の中で一つの結論に至った。夢でも天国でもない。人の命を奪った感覚は今でも思い出せる。

 ならば、ここから導ける答えはそれだけしかなかった。

 

 漫画って趣味に話にしか役に立たないと思ってたのに初めて役に立ったな……。

 

 俺はとりあえず、気持ち悪い汗を流す為にシャワーを浴びることにした。

 

 シャワーを頭から浴びながら一つずつ整理していく。

 

 一つ。俺はタイムリープした。なぜそうなったのかは不明。

 二つ。今日は高校の入学式当日。

 

……整理する意味があったのかと言うくらいに薄い内容に脱帽した。

 

 しかし、何故俺がタイムリープしたのだろうか? 神の悪戯? 悪魔との契約? 輪廻の崩壊?

 

 まあ、どうでも良いか。正直、何故タイムリープしたのかと考えても時間の無駄だろう。俺に必要なのはこれから何をするか。

 

……なんて、もう決まってる。なんなら、目を覚ました瞬間からその事しか考えてなかった。

 

 俺は、あの屑から巳波ひなを寝とる。まあ、簡単に言えばあの屑の恋人さんを俺が奪っちゃうって訳だ。

 

 制限時間は今日から卒業までの3年間。それ以降の屑の行動は分からない。前の時に巳波ひなの事を知れたのは本当にたまたまだった。まあ、とりあえずその間にあの屑か巳波ひなを奪い取る。


 それだけは確定事項だ。

 

──篠宮拓巳の殺人鬼化まで後七年。

 

 

 

 

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