第2話

 綺麗な女性店員さんは、私たちに一歩寄って来た。

 空気の流れによって、ふわっと、花のような良い香りが漂ってきた。


 女の私でも、素敵だって思っちゃう。

 一目惚れでもしそうな気分。



 すごくできるビジネスマンっていう感じ。

 サイズがぴったりのスーツが、すごく似合っている。

 女性らしさをさりげなく出してくるあたり。

 少しドキドキしちゃうな……。


 年齢は私と同じくらいだと思うのに、すごくしっかりしてそう。

 体型だって、とても魅力的な身体付きをしているし……。


 私が、店員さんに見惚れていると、彼が質問に答えてくれた。



「二人で住むための賃貸を探しているんです」



 彼が答えると、店員さんは一瞬私と彼を見定めるように交互に見た。


 間が少し空いたが、それを感じさせないようにスムーズに促してくる。


「お二人のおうちということですね。可愛らしい彼女さんと二人で住むっていうことなんですね、羨ましいです」


 私は、恥ずかしがりながらも、少しお辞儀をして答えた。

 店員さんは、貼り付けたような笑顔と言ったら失礼だけれども、営業スマイルは崩さないで案内を続けてくれた。


「それでは、まずはこちらへどうぞ。お話をお伺いいたします」


 優しい笑顔をこちらに向けながら、テキパキと誘導してくれた。


 こういう出来る女性に、案内してもらえれば安心かもな。


 私と彼は、二人で小さな丸テーブルへと座った。



 私たちが席に着くと、店員さんは聞いてきた。


「アイスティーをお持ちしますね。ミルクや、レモンなどはご使用になりますか?」



 おぉ。都会だと、やっぱりすごいなぁ……。

 なんでも、至れり尽くせり。

 アイスティーなんて、田舎じゃ考えられないようなオシャレな飲み物だよ。


 私が、感動していると、やはり彼が答えてくれた。


「じゃあ、僕はミルクをお願いします。あと、ガムシロップを一つ」

「あ、あの、私は、ストレートで……」


 私が必死に答えると、店員さんは優しく笑っていた。


「ふふ。彼氏さんの方が、甘いものが好きなんですね。面白いですね」


 店員さんは、私と彼の顔を見比べていた。

 私の方が、話しかけられた気がしたので、今度は私から答えた。


「あ、はい。この人、甘党なんですよ」

「ふふふ。そうなんですね。確かにそんな感じがしますね。甘い顔をしてます」



 店員さんは、裏にいる人に今聞いた注文を依頼すると、そのまま続けて私たちとの雑談に応じてくれた。



「この街、すごく美味しいケーキ屋さんがあるんですよ。彼が甘党とのことでしたら、帰りにでも買って帰るといいかもしれないです」


「そ、そうなんですね。店員さんみたいに、オシャレなお店だと、入りづらいかもですが……。行ってみたいです!」


「大丈夫ですよ、彼と一緒なら入れると思いますよ? ‌ケーキは、少し甘いかも知れないのですが、きっと、彼氏さんのお口に合うと思います」


 そう言って、店員さんは彼の方にニコッと微笑んだ。


 私の彼は、こういう営業スマイルには反応しないんだよね。

 綺麗な人を見ても鼻を伸ばさないところが、好きなところだったりする。


 今は、なんだかちょっと険しい顔をしてるけれども。

 暑くないのに、額に汗まで浮かべちゃってるし。


 綺麗な人だと流石に緊張するのかな?



 そう思ってると、店員さんは、一度奥へと行ってしまった。

 歩いている後ろ姿も、可憐であった。


 ずっと見てたいくらい綺麗な姿。



「……あの人綺麗だね。ああいう人、憧れちゃうなー」


 私は、同意を求めて彼の方を向くと、彼は店員さんを特に見ていないようだった、

 私の方をしっかりと見つめていた。


「……そうかな? 僕は、君みたいな可愛い人が好きだよ」


「……もう。こんなところで、そんなこと言って」



 久しぶりに会えたからかな?

 彼は必死にこちらに訴えかけるように言ってくる。


 この人は、恥ずかしげもなくそういうこと言うんだから。


 こういうところ、好きだけれども。

 恥ずかしいな。ふふ。



 傍から見たら、バカップルかもしれないけれども。

 一年の遠距離が終わって、新しく二人で暮らすんだもん。

 このくらいは、許して欲しいよね。



 私と彼は、二人でアイスティーを飲みながら待った。

 しばらくしたら、先ほどいた店員さんが帰ってきた。

 引き続き、私たちの対応をしてくれるようだ。



 その姿を見て、私は嬉しくなっていた。

 そんな一方で、彼はずっと難しい顔をしてる。


 一気に飲み干したアイスティーの氷が、カランと音を立てて溶け始めていた。



 暖房効きすぎてて、暑いかもしれないけど。

 私より緊張するって、彼もまだまだ田舎者かもしれないな。


 私がリードしてあげないとだね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る