都会の不動産で、彼ではない人と二人きり。
米太郎
第1話
新幹線を降りると、彼がホームまで迎えに来てくていれるの。
久しぶりに会ったときは、荷物をほっぽり出して彼に抱きつくんだ。
感動の再開。
毎月会っていたけれども。
今度からは、毎日会えるんだ。
「やっとだね」
「そうだね! 嬉しいよ!」
新幹線の下車ホームは、みんなすぐに階段へと向かってしまうから、誰も見ていない。
新幹線が停車しているから、周りのホームからも見えていない。
私と彼だけの空間。
そんな空間で、二人で熱いキスを交わす。
身体の中の温度が直に伝わるキス。
どちらからも、お互いを求めるようにキスを交わした。
◇
私が都会に就職したことをきっかけにして、私は彼と一緒に住むことにしたんだ。
私と彼のハッピーホーム。
まだ、マイホームを買うなんて難しいけれども、同居ならできるかなって。
どんな部屋がいいかを物件調査を目的に、二人で不動産屋さんへと行くことにしていた。
大きなキャリーバックをカラカラと引いて、目的の駅へと移動した。
優しい彼が、大きな荷物を持ってくれて。
私の手は、彼の手に包まれている。
駅前にある、普通の不動産屋さん。
外見も結構綺麗だったが、内装もすごく綺麗に見える。
さすが、都会っていう感じだなー。
店の前で見とれてしまっていると、彼が手を引いて入るように促した。
彼は、いつも私を先の世界へと連れて行ってくれるんだよね。
そういうところが、好きだな。ふふ。
私は、田舎から上京してきたばかりだから、こういう普通の不動産でも新鮮に感じちゃう。
彼は、私の一つ上。
学年的にも、社会人経験的にも一歩先へいってるんだ。
高校、大学と一緒の学校に行って、彼の方が先に都会で就職した形になった。
彼が都会、私が地方の大学という状況で、一年間遠距離恋愛だったけれども、その間にお互い浮気するなんてことはなかった。
毎月彼の家に行っては、お片付けしてあげてたんだよ。
そうそう。彼の家の汚さと言ったら……。
独身の男の人なんてみんなそうかもしれないけれども。
「ゴミぐらいは、ちゃんと捨てようよー」って言いながら掃除してあげてたっけ。
絶対に女は呼んでないだろうなっていう汚さだったし。
ズボラ過ぎるんだよね、私の彼。
それに不器用だし。
だから、隠し事なんてできないと思っている。
そういうところも、もちろん好き。
今の彼の家に転がり込んでも良かったけれども、二人で住むなら、もう少し広くしようって思ったの。
彼の一人暮らしは、何にも気にせず、築年数が古いところに住んでいたからね。
私は、ちょっと、そこには一緒に住めないなーって。
汚さも少し気になったけれども、壁が薄いところが一番のネックで。
二人で住んだら、何があるかわからないじゃない?
私も、もう大人だもんね。
ふふふ。
おっと。
顔がにやけてる気がする。
気を引き締めないと。
ここは、都会だからね。
田舎臭さは、故郷に置いてきたんだからね。
不動産屋さんの中は、なんだか輝いて見えた。
希望に満ち溢れていると、なんでも綺麗に見える気分になるな。
早速周りをきょろきょろと見渡し始めた。
色々と話し合ったけど、私の要望で住むところを変えようって言ったの。
せっかく住むなら、都会が良いなって。
それも、私の憧れの街。
どんな家があるのかな。楽しみだなー。
これから、新しい生活が始まるっていう感じ。
ワクワクしちゃう。
不動産屋さんの中で、天井から垂れ下がっている物件情報を見つけたので、まずはそれを眺めてみた。
「こういうのも良いかもね。築年数浅いし、外観綺麗だよ!」
「けど、少し高いんじゃないかな?」
「うーん。確かに……」
そんな話をしていると、店員さんらしき人が声をかけてきた。
「どんな家をお探しでしょうか?」
店員さんの方を見ると、姿勢正しく身体の前で手を合わせて経っていた。
第一印象は、とても綺麗な人だと思った。
都会の営業さんは、やっぱり美人が多いのかもしれないな。
ピッチリと、身体のラインが綺麗に見えるスーツを着ている。
出来る営業さんっていう感じ。
すごいな。キラキラして見える。
整った眉。筋の通った鼻。
かといって、威圧感があるわけでもなくて、優しい印象を受ける。
こちらに優しい笑顔を浮かべながら、話しかけてきた。
「良ければ、どのようなお部屋が良いのか、お話聞かせてくだいませんか? 」
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