<KAC2024お題作品>最強のセキュリティ

口羽龍

最強のセキュリティ

 2月の下旬、充(みつる)は新しい住居の候補になりそうな物件を見に来た。以前、ここを両親が見たそうだが、なかなかいいと思ったので、今度は充本人に見てほしいと思ったようだ。なかなか評判でお勧めだそうだ。どんな物件だろう。充はワクワクしていた。


 充はそのマンションにやって来た。そのマンションはおしゃれで、どこか西洋風の外観だ。なかなかいい所のようだ。


 と、そこに大家がやって来た。大家は優しそうな雰囲気だ。何でも優しく相談に乗ってくれそうな顔をしている。


「あっ、お邪魔します」


 充はお辞儀をした。大家は笑みを浮かべている。


「このマンションはいいですよー。大学に近くて駅にも近い。そしてこのマンションの魅力は、セキュリティがばっちり! 皆様にも好評です。そして、夢がありますよ」

「本当ですか?」

「はい。ぜひ、どうぞ!」


 充はワクワクした。セキュリティが自慢で、強盗は絶対に近寄れないそうだ。外観から見て、その理由は見当たらない。どうして近寄れないんだろうか? 充は首をかしげた。


 充は部屋に入った。部屋は清潔で、なかなかゆったりとしている。ユニットバス、トイレはシャワー付き、コンロはIH、なかなかいい所だ。だが、施錠の仕方は普通で、モニター付きのインターホンもない。どこにもセキュリティが自慢だと思われる要素はない。だが、この物件はなかなかいい。4月から通う大学にも近いし、通学も苦にならない。コンビニもショッピングセンターも近くにある。


「じゃあ、いい方向に考えておきます」


 充はそう言ったが、すでにおおむね考えていた。ここにしようかな? ここなら安心して住めそうだから。


「ありがとうございます。お待ちしております」


 充は実家に帰っていった。その帰りの途中で、その物件の事をパンフレットなどで調べていた。セキュリティが最強だという噂は本当のようだ。やっぱりここかな?




 実家に帰って来た充は、両親にその物件の事を話した。両親が勧めたこの物件がやっぱりいいな。両親も安心して送り出せる。


「この物件?」

「うん。いいでしょ?」


 両親も納得している。やっぱりここかな?


「うん。何しろ、セキュリティがしっかりとしてるってところがいいじゃん」

「うん。独り暮らしで不安だけど、これなら大丈夫ね。じゃあ、ここにしようよ」


 両親は期待していた。これから親元を離れての生活だけど、ここでもっと成長してほしい。そして、いい会社に就職してほしい。


「そうだね」

「よし! 決まった!」


 充は大家に電話をかけた。すぐに大家が電話に出た。


「もしもし、私、船越充ですが、この部屋を借りますので、よろしくお願いします」

「はい、わかりました。お待ちしております。ありがとうございました」


 大家は嬉しそうな表情で受話器を置いた。入居してくれるようだ。よかった。これでまた部屋が1件埋まった。




 来月の下旬、充はそのマンションにやって来た。これからここに住む。新しい生活が始まる。そう思うと、ワクワクしてくる。そして、今日から大学生活が始まるんだ。そう思うと、頑張らなくっちゃと思う。


「ここか。楽しみだな」


 充はマンションの入り口にやって来た。その前には大家がいる。大家は充を待っていたようだ。


「お邪魔します」


 充はお辞儀をした。大家は笑みを浮かべる。


「あっ、今日から入居する、船越さんだね」

「はい」


 大家は充は家に案内する。大家は嬉しそうだ。また1人、入居者が増えたからだ。


 しばらく歩くと、大家は足を止めた。ここが充の部屋のようだ。


「こちらの部屋でございます」

「ありがとうございます」


 充は扉を見た。これからここで住むんだ。そう思うと、気持ちが高ぶってくる。


 と、そこに若い女性がやって来た。このマンションの入居者のようだ。


「あら、今日から入居した方?」

「はい。そうです」


 充は軽くお辞儀をした。まだまだ分からないことだらけだけど、これからどんどん慣れていこう。


「ここはいいですよー。夢がありますし」

「そうですか。で、その夢って?」


 充は『夢がある』というのが気になった。このマンションに住むだけで、夢があるんだろうか? どんな秘密があるんだろうか?


「それは何だろうね」


 だが、女性は話そうとしない。充はますます楽しみになってきた。


「ふーん」

「何はともあれ、これからよろしくお願いします」


 女性はお辞儀をした。これから仲良くなっていこうと思っているようだ。


「こちらこそよろしくお願いします」

「はぁ・・・。疲れたな」


 充は肩を落とした。今日は色々と疲れた。新しい部屋でゆっくり休もう。


「グルルル・・・」


 その時、何かの鳴き声がした。聞いた事のない鳴き声だ。猛獣だろうか?


「ん?」


 充は振り返った。だが、そこには何もいない。ただ、街路樹と道路があり、その向こうにビルやマンションがあるだけだ。


「あれ? 何だろう」


 充は首を傾げ、部屋に入ろうとした。


「グルルル・・・」


 また聞こえた。再び充が振り返った。するとそこには、赤いドラゴンがいる。


「うわっ!」


 えっ、どうしてここにドラゴンがいるの? まさか、ここのセキュリティって、ドラゴン? でも、どうしてこんなのがいるの?


「驚いた? わしのペットじゃ」


 充は横を向いた。そこには大家がいる。何と、子のドラゴンは大家さんのペットだというのだ。こんなペットを飼っているなんて、何という大家さんだろう。充は少し引きそうになった。


「えっ、これがセキュリティ?」


 それを聞いて、大家さんはうなずいた。最強のセキュリティって、これなの?


「そうじゃ」

「そ、そんな・・・」


 そのセキュリティは、入居者しか見えないという。こんなセキュリティシステムがあるなんて、とんでもないマンションに入居してしまったな。だけど、とても夢がある。

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