本編
※ここはすっかり観光地になってしまったねぇ。
別に構わないけどさ。
しかし、今年の夏も暑いねぇ。
昔は
この場所に港ができる前の話さ。
誰かさんが
ところで、ずっと海を眺めてたみたいだけど、海が好きなのかい?
もちろん、私も海が好きさ。
朝焼けは清々しくてさ、今日も一日頑張るぞって気持ちにさせてくれるよねぇ。
夕暮れ時は美しくてさ、どこか切ない気分になって海を眺め続けてしまうよねぇ。
海風がそっと優しく吹くとさ、夏場は凄く気持ち良いんだよねぇ。
夜の海は……。
満月の夜は……少し気を付けないといけない……。
満月に照らされた漆黒の海を眺め続けていると……誘われてしまうから……。
誘いに乗ってしまうと……無意識の内に足が動いてしまう……。
誰からの誘いって……?
……。
…………。
………………私だよ。
時折……満月の夜には人を丸呑みしたくなる衝動に駆られてしまう……。
ごめんねぇ……怖かったよねぇ……。
大丈夫大丈夫……遠い遠い……遥か昔の話さ……。
どれくらい昔の話かって?
そうだねぇ、かれこれ千年くらい前の話だねぇ。
ふふっ、安心したかい?
おっと、こんなにも暑い中、長く語ってしまったねぇ。
少し日陰で休んで、水分補給をしなくちゃねぇ。
私はそろそろ、おいとまするよ。
姿が見えなくて、声だけが聞こえ続けてるけど、私がどこにいるかって?
さっきからずっと、目の前にいるんだよねぇ。
そうさ、ゆっくりと波を打っている、目の前の海だよ。
その波の揺れは、私が呼吸している証さ。
好きって言ってくれて、嬉しかったよ。
ありがとねぇ。
The Summer Sea 川詩夕 @kawashiyu
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