　その部屋には大きな銀色のカプセルのような機械があった。大きさはだいたい子供が一人、入れるくらいで、大人なら首を曲げて、足を折りたためばなんとか入れるかもしれない、というくらいの中途半端な大きさだった。

「これはなに？」ホラーが言う。

「なんだと思いますか？」ひながホラーの質問に質問で返事をした。

「タイムマシン」

　ホラーはひなの質問に即答する。その答えを聞いてひなが微笑んだ。

「ふふ、ホラーさんらしい素敵な答えです。でも残念ながら違います。正解じゃありません」

「残念」ホラーは言う。

　言いながら私らしさってなんだろう？　とホラーは考えてみたりする。

「正解はコールドスリープ装置。つまり体と心を凍らせて、冷凍睡眠をするための装置です」

「ああ、なるほど」ホラーは言う。

　ひなはとても懐かしいようなものを見るような慈愛に満ちた目でその装置を見つめていた。それはつまり、ここがひなの生まれたばかりのころのベットなのだろう、とホラーは推測した。

　でも、そのことを言葉に出して聞いたりはしない。

「雪山で遭難したのと同じです」ひなが言った。

「雪山で遭難？」

「はい。そういうお話があるんです。雪山で遭難した女の子が、不思議な生き物と出会って、山小屋で一夜を過ごして、大人の人たちに救助されるっていうお話。お母さんが昔、よく私に聞かせてくれたお話なんです」

　そんな話をするひなはどことなく嬉しそうに見える。　

　確かにここは雪山の中にいるように寒い。まるで冷蔵庫の中にいるようだ。ホラーは自分の手で自分の二の腕を軽く触る。ホラーの着ている服は起きたままのお気に入りの白いパジャマのままだった。

　それは雪山にふさわしい格好ではない。

「そんな話があるんだ。私は知らないな」

　そう言いながらたぶん、その話はひなのお母さんが（ひなのために）でっち上げた物語だろうとホラーは思った。

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