29
「ここ、私の生まれた場所なんですよ」
「ハッピーバースデー」ホラーは言う。
ひなは小さな声で、でもはっきりと、『先ほどの秘密の答え』をホラーに教えてくれた。
ひなの目は今も穴と壁と、そしてホラーではなく、じっと暗い大地に向けられている。
ホラーは自分を見ようとしないひながどんな表情をしているのか、少しだけ考えてみた。そしてホラーが思い描いた空想のひなの顔は、あのなんの感情も浮かべていない、初めて出会ったときのような、ずっとじっとしている、動かない人形のようなひなの顔だった。(ホラーそっくりのひなの顔だ)
変なこと考えてごめんね、ひなちゃん。
と、ホラーは心の中でひなに謝った。
それからホラーはごめんね、の言葉の代わりにそっと、不意打ちで、ひなの頬にキスをした。
「きゃ!」
と声を上げてひなが大げさに驚いた。
信じられない、といった表情をして自分を見るひなを見て、ホラーはそんなに驚かなくてもいいのにな……、と思い、ちょっとがっかりした。
「ハッピーバースデー。ひなちゃん」
もう一度、ひなの手をぎゅっと握りながら、ひなの両目をしっかりと自分の両目で見つめながら、ホラーは笑顔でそう言った。
瞬間、ひなの手がぶるっと小さく震えた。
そして、その美しい海のような青色の目には涙が溢れて、それは我慢しきれずに一粒だけ、ひなの白い頬のつたって暗い床の上にぽとり、と落っこちた。
ひなの頬には涙の跡が残っている。
その跡をホラーはそっと自分の右手の指で拭った。
「早く消さないとそれ、ずっと残っちゃうからね」
「……」
「どうしたの?」
ホラーは質問をする。
それから小さなひなの体をしっかりと自分の体で抱きしめた。
「……りがとう」
「なに? よく聞こえない」
「ありがとう、ホラーさん」小さな声でひなは言う。
それからひなはまるで川が洪水を起こしたように、反射的に泣き出した。たくさんの透明な涙が、ホラーの体の中を流れていった。それをホラーはとても愛おしいと思った。
ひなの涙はあったかい。(冷たくなんて、全然なかった)
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