仮 空蝉逆転
泡沫 知希(うたかた ともき)
第1話
目が手で隠されたように景色が真っ暗に染まった。手を伸ばしても何も見えなかった。空蝉たちの鳴き声が、恐怖と不安のメロディを奏で始める。だんだんと広がっていくので、私自身もメロディに聞き惚れて、動けなくなってしまう。
刹那、世界は暗闇は光で満ちた。
あまりにも強い光のため、目を閉じてしまった。少しずつ瞼を上げると、か細い光に変化していた。まるで蜘蛛の糸を連想する。光を追いかけて、私は天国へとたどり着くのであった。
あの日から私たちが住む世界は変わってしまった。
世界は変わってしまったが、一握りの人間は生き残れたとされている。ここにいるとたくさんの人が亡くなったことを実感することが難しいが、環境の変化があるため嫌でも世界が変わったという事実を突きつけられる。
スマホなんて使えなかった。電気に限りがあるから。
衣食住は最低限のものしか与えられなかった。資源に限りがあるから。
仕切られた空間から出ることが出来なかった。外は荒れていて人間が生きられないから。
制限だらけの世界になってしまった。だけど、生きていれば希望が持てた。
いつか前のように生活できると信じていたから。同じ境遇の人しかいなかったから、頑張れたんだ。
だけど、私たちは鳥籠にいた鳥であった。いや、もっと酷いものであった。
私は職員が移動する通路の先にある、外の世界には電気があるように見えた。確認するために、仲間たちとこっそり通路に向かうことにした。暗証番号などもあったから、外が安全になるまでは隠しているのだと、淡い期待を抱いた私たちは深い後悔を植え付けられるとは知らなかった。
息を潜めつつ、でも、足早に進んだ。長い通路の先には、明るい光が差し込む窓を見つけた。仲間たちと顔を合わせて、希望を待っている人たちに嬉しいニュースを伝えられるかもしれないと駆け出した。ほぼ同じタイミングで窓に触れて、外の世界を見た。
世界は何も変わっていなかった。
私たちが暮らしていた世界と同じように存在していた。太陽もあったし、ビルも見えた。なんなら、私たちがいる場所は都会の真ん中であろう。人々がいつもの日常を過ごしていた。
私は目を疑ったが、仲間たちも同じようになっていた。目を丸くして、開いた口が塞がらない。なぜというたくさんの疑問が頭に浮かんだが、多くの足音が聞こえてきた。逃げようと後ろを振り返るといつも見る職員たち。そして、銃を持つテロリストのような人々。
背中に冷房が当てられているような錯覚に陥る寒気が襲う。動けずに固まっていると、
「君はやはり危険人物のようだな?政府に逆らう才能はあの日から分かっていたが、これほどまでとは…。ここまでたどり着くのは想定外だった。君たちがここまで来たおかげで、この施設の不備を発見できたのだから感謝しよう」
白衣のポケットからナイフを首に当てられながら、長々と語る職員。私はおかげで理解した事実に怒りが湧き出た。
「なぜ私たちを騙す?世界が滅んだように仕向け、1部の人々を閉じ込めているんだ!」
「なぜか?それはもちろん政府に逆らう君たちのような人間を暴き、思い通りに政治を行うためさ。国民を確実に支配するために、国民を分けたんだよ。あぁ、話しすぎたか」
「ふざけんなっ」
ナイフを奪い、暴れようとしたが、首が痺れて全身の力が抜けてしまう。抵抗したいが力が入らず、睨めつけるだけになってしまう。倒れ込んだ私と視線を合わせるように職員もしゃがんだ。
「君はやはり危険人物だね。ここで一生暮らすんだよ。鳥籠の中でね」
見下す声色と言葉に、ここから出てやるという意思を私は固めたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます