憑いたものの正体
「────もし、お金目的なら今すぐお帰りを。ウチはもう本当にお金がなくて……今回の費用を工面するのだって、かなりギリギリだったんです」
『親戚や知人に頭を下げて……』と語る東雲柚子に、俺は一つ息を吐く。
今回の報酬金額は十万円。ウチの最低金額だ。
高いと思うかもしれないが、こっちは場合によっちゃ生死を賭けなきゃいけないから妥当だろう。
むしろ、かなり安い方。
少なくとも、
でも、今の東雲柚子にとっては人生を変えるほどの大金なんだと思う。
強く唇を引き結ぶ東雲柚子の前で、俺は僅かに顔を上げる。
「お話はよく分かりました。その上で言いますが、俺は────まあ、お金目当てです」
「えっ……!?」
まさかここまで正直に答えるとは思わなかったのか、東雲柚子は面食らう。
呆然として固まる彼女を前に、悟史はプッと吹き出した。
「ちょっ……その言い方だと、語弊を生むでしょ」
『多分、詐欺師認定されているよ』と大笑いする悟史に、俺は軽く蹴りを入れる。
と同時に、居住まいを正した。
「もちろん、依頼はこなしますよ。仕事なんで。金だけ搾り取ってトンズラはないです」
「な、なるほど……?」
ようやく事情が呑み込めてきたのか、東雲柚子は少しばかり態度を軟化させる。
『お金目当てって、そう言う……』と安堵する彼女の前で、俺は顎に手を当てた。
「まあ、とにかく手は尽くします。だから、いくつか質問してもいいですか?」
話を本題に戻し、俺はちゃんと仕事する姿勢を見せた。
すると、東雲柚子はほんの少しだけ表情を和らげる。
「はい、どうぞ」
「では、遠慮なく────まず、コックリさんの儀式自体はいつどこで誰と行ったんですか?」
早速質問を繰り出すと、東雲柚子は少し悩んでからこう答える。
「確か……七月一日の放課後、学校の教室で幼馴染みの二人と一緒にやったと伺っています」
『私もその二人から、コックリさんのことを聞いて』と補足する東雲柚子に、俺はスッと目を細めた。
その二人の幼馴染み────多分、嘘をついているな。
自分の予想と食い違う情報を前に、俺は悟史へ視線を向ける。
「お前、人の嘘を見抜くのは得意か?」
「まあ、それなりに?これでも、尋問や拷問のプロだし」
「おっかねぇワードを出すんじゃねぇ……」
時折ぶっ込まれるヤクザトークに辟易しつつ、俺は東雲柚子へ向き直った。
「その二人の幼馴染みと話すことは、可能ですか?ちょっと確認したいことがあるんですが」
「え、ええ。今日は中学校も休みですし、家も近所なので呼べば多分応じてくれるかと……あっ、でも今は麻里を怖がって来ないかも」
ふと天井を見上げて嘆息し、東雲柚子は少し困ったように眉尻を下げる。
────と、ここで悟史が席を立った。
「じゃあ、こっちから会いに行くのはどうですか?」
という悟史の提案により、俺達は二人の幼馴染みの片方────
そこにもう一人の幼馴染みである
そして東雲柚子の方から事情を説明してもらって、問題の質問タイムへ。
「東雲柚子さんから、コックリさんを行ったのは『七月一日の放課後、学校の教室で』と伺っています。その証言に間違いはありませんか?」
極力相手を怖がらせないよう優しく問い掛け、俺はじっと反応を窺う。
隣で正座する悟史も、テーブルを挟んだ向こう側に居る二人を見つめた。
恐らく、俺の狙いは分からないまでも何となく二人の嘘を見破ろうとしているのは、理解しているのだろう。かなり意識を集中させていた。
「ぁ……えっと、その……」
「間違い……ありません」
言い淀む綿貫紗夜を気遣ってか、皇桃花が代表して答える。
その瞬間、悟史はスッと表情を打ち消し────不自然に口角だけ上げた。
目だけ笑っていない顔、と言えば伝わるだろうか。
『ヤクザモードか、これ』と内心ビビる俺を他所に、悟史は僅かに身を乗り出す。
「────嘘はダメだよ、二人とも」
そう言って、悟史は綿貫紗夜と皇桃花の首を軽く掴んだ。
『ひっ……!』と小さな悲鳴を上げる二人の前で、彼は異様なまでにニコニコと笑う。
「お友達が大変な目に遭っているのに、どうして嘘をつくの?」
「そ、それは……」
「し、らない……!私達は本当のことしか言ってない!」
真っ青な顔でガクガク震える綿貫紗夜と、半泣きになりながらも抵抗する皇桃花……両者とも依然として口は割らないものの、嘘をついているのは明白。
「悟史、もういい。充分だ。謎は解けたからな」
「えっ?謎って?」
「どうして、あんな大物がコックリさん如きに手を出したか、だよ」
「あー……確かに考えてみると、妙だね〜。で、何でなの?」
パッと二人の首から手を離し、悟史は座布団の上に座り直した。
その途端、綿貫紗夜と皇桃花はコホコホと咳き込む。
そこまで強い力で絞められていた訳では、ない筈だが……どうやら、恐怖のあまり呼吸さえままならなかったようだ。
『まあ、アレはビビるよな』と思いつつ、俺は目の前のテーブルに肘をつく。
「答えは至って、シンプルだ。こいつらがコックリさんをやったのが────学校の教室じゃなくて、
「「「!?」」」
悟史、綿貫紗夜、皇桃花、東雲柚子の四人はハッと息を呑んで固まった。
時間が止まった錯覚を覚えるほどに沈黙する彼らの前で、俺は大きく息を吐く。
「だから────
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