【小説】フレディ・マーキュリーの家を内見しよう
安明(あんめい)
そう、フレディの家を購入するのだ。
フレディ・マーキュリーのロンドンの家「ガーデン・ロッジ」が売りに出されているということを、ネットで知った。
フレディが自分好みに様々な手を入れ、人生の最期まで愛し続けた家である。
フレディ・マーキュリーといえば、彼のコレクションが昨年サザビーズのオークションにかけられた。残念ながら、まだその時点では、私にはオークションに参加する財力がなかった。
事態が変化したのは、今年になってからだ。起業した会社の株の一部を市場に出そうと思っていたところ、折からの株高につられて私の会社の株価も急上昇し、相当の資金を手にすることができた。
本来この資金は新規事業の展開に使うところだが、創業者のわがままをひとつくらい通してもよいだろう。
そう、フレディの家を購入するのだ。
フレディの思い出の品はオークションでおそらく世界中に散り、ファンはもう見ることはできない。
ならばせめて家くらいは、ファンが訪れることができるようにしてはどうだろうか。
生前のフレディは、自分の博物館のようなものができることは希望していなかったという。ただ、ファンが家を訪れて、フレディに思いを巡らすことくらいは許してくれるのではないだろうか。
宿泊体験なんてことも、やってみたい。
新進のアーティストの、創造の場とするのもいいかもしれない。
売り出し価格は3,000万ポンド、日本円で57億円以上という。「以上」というからには、オークションではないにしても、エージェントに購入希望価格を伝えて、購入希望者からエージェントが選定を行うのだろうか。
売主のメアリー・オースティンにしても、投機的な購入は望まないだろう。購入資金があるのは当然だが、フレディの家を買うにふさわしい人物が選ばれるに違いない。
私がフレディの家を買うにふさわしい人物かは、自分では判断ができない。ともかく、手をあげないとどうにもならない。
不動産購入の例に漏れず、フレディの家は内見ができる。ただし、誰でも内見ができる訳ではなく、購入資金があるかどうかの審査があるという。
まずは内見の申し込みだ。
エージェントに私の資産を知らせて内見を申し込んだところ、数日後に審査が通った旨と、内見の日時の連絡がきた。
さっそく私はロンドンに飛んだ。フレディの家を訪れるのは31年振りである。
31年前は、家の外からフレディを偲ぶしかなかったが、今回は家の中に入れる。
ただ、単なる見学ではない。私が家を内見するのと同時に、私が家を買うにふさわしい人物かどうかも「内見」されるのだ。
指定の時間の5分前、私は緊張しつつも、背筋をしっかり伸ばしてケンジントンにあるガーデン・ロッジの、インターホンを押した。
「お待ちしておりました」という声とともに、ドアが開いた。
フレディ・マーキュリーの愛した家に、私は一歩足を踏み入れた。
目が覚めたのはその瞬間だ。どうやら私は夢を見ていたらしい。
寝ぼけ眼で貯金通帳を確認したが、当然57億円にいくつも桁が足りないし、私は会社のオーナーでもなかった。
了
【小説】フレディ・マーキュリーの家を内見しよう 安明(あんめい) @AquamarineRuby
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