〈sequence 03 : 時の牢獄〉

0.ある少女の目覚め(2)

 ここに一人の少女がいる。

 朝が来て、目を覚ましたばかりだ。

 ぼんやりとした寝ぼけまなこのまま、首をかしげて、

「…………あれ?」

 辺りを見回している。


 なにかがおかしい、とその少女の本能は感じた。

「ええと……?」

 少し考えて、気のせいだろうと少女は結論した。同じように訪れる朝、同じように過ごされる毎日。小さな違和感にいちいちつきあってなどいられない。

「おねえちゃん? 大丈夫?」

 部屋の入り口、年の離れた妹が心配そうにこちらを見ている。「だいじょぶだいじょぶ、心配かけてごめんねぇ」と追い返す。

「…………」

 何だろう。

 違和感が、止まらない。

 先ほどから体験しているすべてが、もう何度も何度も、いや、まるで何百回も繰り返していることであるかのように、感じられる。これを既視感という言葉で片付けていいものかどうか、判断に迷う。

「……ゆめく、ん」

 なぜ今、その名前を思い出したのか。

 可愛い後輩たちの中の一人。ひとつ年下の、少年のことを想う。

 まっすぐで単純で、いろいろ実力はあるのに本番に弱くて、きらきらした目で憧れの先輩のことを見てくる、そういう可愛いやつだ。放っておけないというか、保護欲をそそるというか、そういうカテゴリの可愛いやつなのだけれども。

 なぜだろう。彼に会いたいと思う。

 昨日まで、毎日のように会っているはずなのに。今日は――なぜかはわからないけど――会えないかもしれない。けれど、明日以降が来れば、いくらでも会えるはず。なのになぜか、ずっと会えていなくて、これからも会えないような、そんな気がしている。

 わけがわからないけれど、なぜだか気が弱っている。しっかりしろ自分。

「んっ」

 最後にもう一度、大きく頬を張って。

 そして、寂院夜空という名のその少女は、ベッドから立ち上がった。

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