泉月からの招待
図書室につながる閲覧室で私は
それは一時間にも満たないわずかな時間だったが日を重ねるうちに
一学期の終わりという時期になっても泉月には友だちと言えるクラスメイトがいなかった。
一応泉月にだって口を利く相手はいる。しかしそれはあくまでも必要に応じて用事をすませるためのものだ。
その頃の一年A組は大半が
私は超初心者で、ようやくクラリネットの音が出せるレベルだったが、泉月はサックスをソロで聴かせる程度の技能を持っていた。
「うまいね。素人の私が言うのも何だけれど、聴き入ってしまう」
「ありがとう」
言葉少なに礼を言うのが泉月だった。
そんな泉月がある日私に夏休みの予定を訊いてきた。あと数日で夏休みに入るという切羽詰まった時期だった。
「軽井沢のおうちにおともだちを連れておいでと言われているの」
誰に? 何で? と訊くことはためらわれた。
これは行かなければならないとその時の私は思ったのだ。
この不器用な子が私のことを友だちと思ってくれている。それだけで十分だった。
よく話を聞いてみると、育ての親である叔父が泉月のことをとても心配していることがわかった。
可愛い姪がちゃんと学校生活を送れているのか。友だちはいるのか。いるとしたらその友だちはどのような子なのか。それが気になっているのだとわかった。
もう夏休みになろうかという時期に急に誘って、来てくれる友人がどのくらいいるのかと彼女の叔父が試しているようにも思われた。
そうではなくて、泉月が誰に声をかけようかと迷い迷って今になった可能性もあった。それならなおのこと私は行かなければならない。
「ありがとう。誘ってくれて。行くわ。行きたい」私は言った。
私と同じく呼ばれたメンバーは意外に多かった。
私たち一班の全員すなわち
二班全員――
三班から
後にS組十傑と言われた十人のうち
シビアなことに成績が選考条件になっていると私は思った。
泉月が選んだのだろうか。だとしてもそうせざるを得ない理由があったに違いないと私は思った。
いや私だけではない。和泉、美鈴、雪舞もそう思っただろう。
「私はピアノをひくことになりそう」
「私はマジックをやらされるのよ」
「何か芸をしなきゃいけないの?」
「そうではないけれど私たちにはリクエストがあったのよ」
雪舞の祖父は有名なマジシャンだったらしい。
美鈴の父母も何かのパーティーでピアノ演奏をしたことがあるようだ。
そうした芸術家の子息なら何か披露して欲しいと言われたとしても不思議ではない。
何だか面倒くさい家だな。泉月が何となく申し訳なさそうな顔をしたのが全てを物語っているように思われた。
「じゃあ芸のない私たちはマジックのお手伝いと前座でもするわ」
私は言った。和泉も賛成するに違いない。
その頃の私たちには確かに芸がなかった。大地を中心に寸劇を披露するようになるのは翌年からだった。
何にせよ、私たちは泉月の友人として呼ばれることになった。中一の夏休みだった。
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