WAKE 6

 ぶん、と耳元で空気がうなり、俺は我に返った。とたんに戦勝に湧く陣屋のざわめきが押し寄せてくる。無数の歓声、怒声、笑い声の中を一匹の虻がすり抜け、青空の彼方へと飛び去っていくのが見えた。

 居眠りをしていたのだと気づき、膝からずり落ちそうになっていた首桶をあわてて抱え直す。中でごとりと音がして、血と汗とかすかに甘い腐敗臭の入り交じったゆらめきが立ちのぼってきた。鼻から深く息を吸う。戦場の匂いが身の隅々にまで行き渡り、疲れ切った体に再び鋼の芯が通った。

 まだ順番は来ないのか。俺はあぐらをかいたまま、顔を縦に伸ばして昼の日差しに白茶けた陣屋の奥を覗き込んだ。斜め前の男が名前を呼ばれてさっと立つ。胸の前には大事そうに首桶を抱えている。

 誰の首だろう。立ち去る男の背中を目で追いながら、俺は他人の獲物にふと関心を持った。だが直後には、どうでもよいことだと思い直した。目を閉じ、自分自身の戦いを思い起こす。

 一瞬で背筋が凍えた鋭い眼光、兜からのぞいた若々しい黒髪、間近に見る顔に刻まれていた無数の深い皺、組み合ってわかった底知れぬ力強さ。なんとか討ち取ったものの、一歩間違えれば今頃自分が首桶の中に入っていてもおかしくはないほどの相手だった。わけあって名乗れぬとのことで、誰であるかはわからない。だがあれほどの人物ならば間違いなく名のある武将であろう。

 俺は褒美への期待に胸を高鳴らせ、抱えた首桶の放つ異臭を再び深く吸い込んだ。

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