あれもこれも出る部屋
雲条翔
あれもこれも出る部屋
「ここ……出る部屋って、ホントですか?」
春から上京し、大学に通う予定の美香子は、内見に訪れたアパートの前で尋ねた。
「色々な噂がありますからねえ」
若い男性の不動産職員は、アパートの鍵を開けながら、曖昧に笑顔でごまかす。
安さにつられて「一度見てみたい」とは言ったものの、移動中の車中の助手席、スマホで調べたら「色々な噂」がある部屋だと分かり、少し怖じ気づいているというのが、今の美香子であった。
「さあ、中に入ってご覧下さい」
お世辞にも「新しくて明るくて清潔」とは言えない、古びて薄暗くてカビ臭い八畳の和室。
でもなぜか、美香子は「やっとここに辿り着けた」ような安心感や達成感を覚えていた。
ずっと前から、この部屋に来たかったような気がする。
なんでだろう。初めて来る場所なのに、何度も来ている気がするし。
デジャヴってやつ?
「規則上、隠してはおけません。正直に申し上げますと、この部屋では、以前に自殺した方がおりまして」
職員は、申し訳なさそうに言った。
「ひえっ! やっぱり、幽霊が出る部屋なんですか?」
「幽霊も出ますし、ゴキブリも……」
「ダブルでイヤだ!」
「あとネズミも……たまに、ゴキブリをくわえたネズミも出ます」
「それだけはマジでイヤだぁー!」
◆ ◆ ◆
隣人は怯えていた。
(今日も声がする……)
自殺者が出たというアパートの一室を見ようと、安さにつられて不動産屋と一緒に内見に来ようとした女子大生がいたそうだ。
だが、車で移動中に交通事故にあって、亡くなったらしい。
彼女の霊は、自分が死んだことに気づかずに、何度も「自分が行くはずだった場所」を内見に行く、という行為を「毎日」繰り返していた。
(あの事故では、運転していた不動産屋の人も亡くなったらしいんだよね……)
不動産屋の職員も、最後に「案内できないままこの世を去った」ことが心残りだったのだろう。
それ以来、毎日、2人の霊が来ては、同じやり取りを繰り返しているのだ。
あれもこれも出る部屋 雲条翔 @Unjosyow
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