12-3:第1章
(ああ……エイジ、悪いな……!
どうやら、助けにはいけないみたいだ……!)
バジュラは斬り伏せた敵を乗り越え、数歩だけビルへと進むと、力尽きて前のめりに倒れた。
(まあ、アイツなら、自分でなんとかするかもな……。
元々余計なおせっかいだったかもしれないし……
ああ……悔しいなあ……)
朦朧とする意識で、勝利を喜ぶでもなく、渦巻く感傷と戦っていた。
エイジを助けに行けなかった悔しさと、死に対する恐怖。
(ああ……結局、私のしたことは無駄だったのかな……?
助けに行けないのなら、この場でくたばるのなら、いっそ……いや、それでも何もしないよりはマシか……
ああ、死にたくないなあ。
傷口からどんどん血が……もっとちゃんと縛るんだったよ)
*
戦闘の幕引きを、離れた場所から警官は見ていた。
避難誘導を終え、通行止めをしていた警官達。
そして、治療を終え、事件を聞きつけて『合流する』と頑なに主張したコンマ。
新発田は呆れつつもコンマに肩を貸し、同じく離れた場所で見ていた。
警官が二十人以上集まって、それでも静観するしかなかったサイキックの暴走。
それに真っ向から立ち向かい、仕舞いには勝利した、一人の女性。
警官たちは倒れるバジュラを眺め、複雑な感情に揺さぶられていた。
警官の一人が、倒れたバジュラに向かって走り出す。
「おい!お前まだ怪我治りきってないだろ!
なにするつもりだ!?」
走り出した警官――――コンマは、新発田の制止も無視して、ふらつきながらバジュラに辿り着く。
「大丈夫ですか!!?
意識はありますか!?」
「……!!!」
バジュラはポケットから何かを取り出すとコンマに差し出す。
差し出すと言っても、なんとか地面に置いたそれを、コンマが拾い上げただけだ。
「…………!!!」
「どうしました!?」
バジュラの口が動いていることに気が付き、コンマは耳を口元に近付ける。
「………………!!!!」
必死に紡がれたバジュラの言葉を聞いて、コンマは急いで背負っていたバックパックを取り外す。
コンマがいつも背負っているバックパックから取り出したのは、応急キットだった。
「おい……!おいコンマ!何してる!?」
後ろから追いかけてきた新発田が声を掛けてくる。
コンマは振り向きもせずにそれに答えた。
「助けるんですよ……!!
なんのために僕が『応急手当一級』と『上級救命士』なんて資格取ったと思ってるんですか!!」
「いやだがオメエ、その傷を長引かせるのは酷だろ!
いっそ一思いに――――」
「『死にたくない』と!!!
彼女はそう言ったんです!!!
ここまでの傷を負って!必死になって戦いに勝って!
それでもまだ彼女は死と戦っているんです!!!」
「は……!?正気か……?」
コンマは叫んでいる間も、的確に処置を進めた。
既にバジュラの出血は止まり、後は医師による本格的な治療が必要だった。
「車!お願いします!!」
「ああ、だがいいのか?
ソイツはお前を斬った奴だぞ?」
コンマはバジュラを担ぐと、激しく揺れを起こさないように歩き出す。
新発田はその後ろに付いて行きながら、悩むようにコンマに訊ねた。
「……彼女は、『カッコいい』んですよ、新発田さん」
「……どういうことだ?」
「彼女は、警察が雁首揃えても立ち向かうことが難しいサイキックと、真っ向から戦った!
ただ『攫われた仲間』を助けたい、その一心で!!
僕は!!恥ずかしい!!!
人を助ける為に警官になったのに、僕が出来たのは、教科書通りに彼女に立ち塞がって邪魔をして、教科書通りに通行止めをしただけだ!!!
僕がやりたかったことを、僕が怖くて出来なかったことを!
彼女はまっすぐに立ち向かっていたのに!!
僕はその邪魔になることしか!!出来なかった!!!
彼女は『死にたくない』と!!
意識を失うまで恐怖に震えていた!!痛みに恐怖していた!!!
それなのに!決して死を恐れないような人じゃないのに!!
恐怖と戦いながら、彼女はとうとう勝ったんです!!!
僕は憧れます!!!
彼女は!カッコイイんだ!!!」
前に向かって、歩を進め、暗くなりつつある空へと叫ぶ。
その姿を見た新発田は、スッキリとした顔になって前に出る。
「そうか!ならいい!」
そんな新発田たちの目の前に、一台のパトカーが滑り込む。
「使っていくか!?」
「嶋さん?!」
嶋と呼ばれた――――先程、ディムの銃撃からバジュラによって守られた警官は、急いで車から降りて捲し立てた。
「新発田が運転した方が早いだろ!?
……俺もこの嬢ちゃんには助けられた!
出来ることなら助けてやって欲しい!!」
「まかせろや嶋……!
ネズミ捕りすら見落とすスピードで医者に届けてやる」
新発田は運転席に滑り込む。
コンマは後部座席にバジュラを乗せて、自身も彼女の補助のために隣へ乗り込んだ。
「嶋さん!!
可能なら彼女の仲間……“エイジ”と“シーカ”だったかな?
あのビルに連れ去られたので、様子を見に行ってください!!
彼女、仲間を助ける為に戦ったんです!
できれば全部助かってほしい……!!」
「
わかった!
なんとか押しかけてみよう!!」
「頼みます……!!
新発田さん!!
彼女から受け取った名刺です!
個人医院の住所が書いてあります!
多分こちらへ向かえってことだと思います!!
わかりますか!?」
「……そこなら国立病院行くより近ぇ!!
揺らさねえで全力で飛ばすぞ!!!」
パトカーはサイレンを鳴らして走り出す。
それを見送った嶋は、急いでビルへと向かっていった。
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