12「勝ち負け」:第1章

 時間は少し巻き戻る。

 オフィスビル、三十階。


 執事服のジジはギャング達を連れ、下に降りて行った。

 エイジはジュラルミンケースを持ったスーツのジジと共に、迎えのヘリを待っていた。


「こんなに待つなんて、珍しく随分と段取りが悪いね?」


「お待たせして申し訳ございません。

 言い訳になってしまいますが、ヘリの運転手をするはずだった人間が今朝、死亡してしまいまして。

 なんとか意識は取り戻したのですが、麻痺が残ってとても運転できる状態ではないと。

 なにやら『不揃いの軍服を着た集団に“ゲリラを鎮圧する”といきなり襲われた』と、意味のわからないことも言っていたそうで……。

 優秀なので重宝していたのですが、人事異動も視野に入れるべきでしょうかね?」


「……その運転手、もしかして昔から偶に見かけた、スキンヘッドの彼?」


「ええ……。

 『毛根は何故不死にならないんだ!』と、口癖のように言っていた彼です」


 エイジは少し噴き出した調子で笑うと、手をひらひらと振ってみせた。


「アッハッハッ!!

 ……それは、その人は多分悪くないよ……!

 ふふっ……悪いのはファッションセンスと廻り合わせだね……!」


 五年前に見た、彼の禿――――スキンヘッド。

 それと、随分と偏った、ロックな私服を思い出し、エイジは顔を伏せて笑う。


「ですが、そろそろ代わりの者が到着する時刻です。

 参りましょう」


 エイジは促されてゆっくりと立ち上がると、ジジに促されて屋上への階段に向かう。

 部屋には、姿を見せはしないが十数人の“夜勤”がいた。

 とてもじゃないがこの高層から逃げ切れるイメージが浮かばなかった。



「というか、いい加減自分でヘリの運転免許くらい取ったら?」


「いえ……あのう……」


「もしかして……まだ高いところが苦手なの?

 そんなんでよくヘリで帰ろうなんて思ったね」


「いえ、乗る分にはもう平気なのです。

 ただ、運転となるとどうにも……体の力が抜けていく感覚がして……」


「ふうん。まあ、仕方ないし、僕としては別にどっちでもいいか」


 階段をゆっくりとのぼりながら、世間話を繰り返す。

 世間話の為に速度を緩めている風を装って、その実、エイジは最後の抵抗で足を進めたくなかっただけだった。


 ヘリに乗ってしまえば、なんだかんだと楽しかった一日は、もう昨日になってしまうのだ。


 屋上に続く扉を、ジジが開ける。

 風圧がエイジの顔を撫でつけた。

 遠くの空はもう暗くなっていて、辛うじて夕暮れを保つ。

 風が耳を押し込んで、音は全く聞こえない。


 ただ、エイジはとても“眼”が良かった。



***



 同時刻、インペリアルレジデンス・ビル32階。


 シーカは3202号VIPルームで、バルコニーの端に立ち、下を必死に覗いていた。

 高層階にあるにも関わらず、ここのバルコニーは柵が低い。

 人々が不死になった影響か、安全基準などをある程度無視しても、うるさく言われないことが増えたせいだ。

 シーカのような背の高くない少女にも、身を乗り出せば下を覗くくらいは出来た。


 けれど流石に高すぎて、細かく何が起きているかまでは判らない。

 ただ、きっとバジュラだと思う人影が、大きなロボットのようなものと戦っているのはわかる。


 戦闘は混乱を極めて、余計に状況がわからない。

 バジュラは、何とか今も無事に動いている。

 それでもなんとなく不利な状況なことはわかった。

 寧ろ、『一人で戦争でもする気か』と疑いたくなるような攻撃を、あそこまで耐えきっていることの方が不思議だった。


「バジュラちゃん……!!!」


 小さく、悲鳴のような声が漏れる。

 今、明らかにバジュラに攻撃が当たった。

 地面が、彼女から溢れ出た赤色で染まっていく。


 よく目を凝らせば、気のせいか腕が無い気がする。

 きっと気のせいだ。

 でも、なんとか、なんとかしなければ。


 シーカは『自分には何も出来ない』と、ここで眺めることを選んだ。

 それなのに今は、『何か出来ないか』と必死になってキョロキョロと辺りを見回している。

 何もあるわけがないのに。


 泣きそうになりながら左右に首を振っていると、こつんと腰に硬い物がぶつかる。

 シーカは思い出して銃を取り出す。

 『それが何の役に立つ』と、何かの――――恐らく、客観的な自分自身が頭で五月蠅く囁いている。

 だけどシーカは、目を閉じ、リボルバーを力いっぱい握りしめた。


 そうしていたら、何故か“予感”がした。

 目を開けて、何かを見なければいけない、そんな“予感”だった。


 シーカは目を開く。

 そしてすぐにそれを見つけて、“予感”に突き動かされるまま、気が付けば叫んでいた。


「エイジぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!」



***



 同時刻、オフィスビル出入口前。


「うおおおおおおおお!!!!!!!

 死に晒せえええええええええ!!!!!!!!」


 チョッピィは決死の覚悟でギャングに立ち向かう。

 その体には大量の爆薬。

 チョッピィは巨悪に立ち向かうため、自らの命を犠牲にするのだ。


「ごめんねぇ……。

 面白かったし、悪いとも思ってるから、今度、何かしらお詫びを考えとくね?」


 巨悪はこちらを向いて、申し訳なさそうに言った。

 だが、もう謝ったって遅いのだ。

 なぜなら、既に起爆スイッチは押してしまったのだから!!


「謝るなら許しても良かったけど遅いよおおおおおお!!!!」


 チョッピィは短気だが、意固地ではない。

 まあ、今回は一緒に吹き飛んでもらおう。

 チョッピィも吹き飛ぶわけだし、痛み分けで、仲直りだ。


「あー……。だよねえ……。

 だから――――ごめんね?」


 “マル”と呼ばれていた巨悪は、手ぶらでチョッピィに近付いてくる。

 爆弾を抱え、猛突進するチョッピィにだ。


「危ないよおおおおおお!!!?」


「よっこい、しょっと」


 “マル”はチョッピィの腕を取って、ダンスのようにくるりと1回転。

 チョッピィはちょっと楽しくなって、少しだけ爆弾のことを忘れた。


「ばいばい」


 気が付けばチョッピィの体は浮いていた。

 というか、飛んでいた。


 1回転した体は、回転の勢いを乗せて、そのまま外へ向けて投げ飛ばされていた。


「はいはい。危ないから皆さん下がってくださいねー」


 気の抜けた声が聞こえた。


「おお!飛んでる!!すっg――――」


 どかん


 チョッピィの意識はそこで途絶えた。


 

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