38. 夢幻の花

 公共取引所を出た後、花々は細工職人協会の工房へ行き、公共取引所で購入したライトクリスタルからライトクリスタルの粉を作った。

 その後、今度は植物採集士の自宅商店へと赴き、一鉢の鉢植えを購入した。少々高く付いたが、比較的安価で購入できる公共取引所を選ばなかった理由は、写真ではなく現物を見て選びたかったからだ。お陰で良い買い物が出来たと花々は満足した。



 セントラルアパートメントの自室へ戻った頃、日はすっかり落ち、街灯が夜道を照らしていた。今夜は新月のようで月明りはない。

 室内に入り照明を点けた花々は、すぐさま買い物袋の中から鉢植えを取り出す。植えられているのは「妖精の花」――薬草アイテムの一種だ。

 青みがかった緑にも金色にも見える茎の所々に同じ色の葉が付き、蝶の形をした半透明の花が咲いている。花は薄紫色で金色の葉脈が透けて見えた。

 花々は机の上に鉢植えを置いた後、ライトクリスタルの粉を取り出し、植木鉢の土の上に少量置いた。

 そして、再び部屋の照明を落とした。

 真っ暗な部屋の中で先程照明の光を吸収したライトクリスタルの粉が白く輝く。足元から照らし出された妖精の花が、その名に恥じない幻想的で美しい姿を見せてくれた。

 花々はその光景に暫し心を奪われていたが、仄かな明かりを頼りに椅子に腰を掛けた。続いて机に肘を突き、両手を組んだ上に頭を載せる。

「ふふ」

 時間も、物事を考えることも、世俗の煩わしさも、今は全て忘れて。花々は、夢の世界へと誘われていった。



 幸せな彼女の見る夢は一体どんなものであろうか。生産職の長く、単調な道程はまだまだ序盤。

 けれども細工職人花々の物語は、ここで一旦幕引きとしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る