35. 夢の一時

 操作説明を聞き終えた花々は、用意された椅子に座った。

 次に、目の前の細工道具に材料となる素材をセットし、操作盤に手を置く。

 操作ボタンには、先程起動された際に細工道具が発したと思われる熱が、まだほんのりと残っていた。その温もりがまるで他人の体温のように感じられて少々気持ち悪くなったが、花々は無理やり気を静めて、製作スキル「アクセサリー製作(細工職人・初級)」を発動させた。

 スキルの発動を感知した細工道具は、自動で花々の魔力を吸い上げる。

 花々は自身の肉体から力が抜け、じわじわと疲労が広がっていくのを感じた。

(これが三次職の製作スキルか)

 改めて、嘗て草薙が語った「ステータスの強化」の重要性が思い起こされた。このスキルを使いこなすにはスキルそのものの修練の他に、やはり魔力や体力等の各種ステータスの底上げが必要なようである。

 そんなことを考えている内にも、細工道具は勝手に作業を進めていた。

 結晶状の鉱物素材アイテムである「ライトクリスタル」を粉末状にする道具であるから、擂り鉢のような形状を思い浮かべていたが、この細工道具「細工用エレメント粉砕機」は何故かミシンに似た見た目をしていた。

 金属のカバーに阻まれて内部の様子は伺えないが、がしゃんがしゃんと機械音を立てて細工道具下部に配置されている容器にライトクリスタルの粉が少量ずつ落とされているのが確認できた。

 花々は慌てて作業に意識を集中させた。気を抜いていると品質が下がったり、最悪の場合製作失敗に繋がりかねない。

 こうして数分後、漸く全てのライトクリスタルを使い切った。途中何度も失敗したが、それも予測して予めクエストカウンターが余分に素材を支給してくれていたので、何とかクエスト完了に必要な量は揃えられた。

 最終的に、ライトクリスタルの粉は細工道具によって自動的に一定量が薬包紙に包まれ、それが十数包、平たい皿の上に載せられて流れ出て来た。花々はその内の一包を開き、一摘みだけ掌に載せた。

(細工職人の製作スキルで作った初めての製作物、手元に置いておきたいけれど……)

 滑らかな粉の感触を味わうように何度も指先を擦り合わせた後、花々は席から立ち上がった。

「仕方ないよね……」

 別れは名残惜しいが、支給されたレシピと素材アイテムで製作した物だ。例えそれが失敗作であったとしても、全て引き渡さねばペナルティーが発生してしまう。

 花々は製作品を素材の入っていた袋に入れ、退室手続きの為に工房の受付へと向かった。

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