untitled

@rabbit090

第1話

 「ヤベェ…殴っちまった!」

 「お前、反省してないよな。」

 「し…てる。」

 「ないだろ?」

 「………。」

 「なあ?」

 「はい。」

 俺は、詰められるといつもこうだ。

 けど、殴ったことには変わりない、でも一つだけ、言い訳させてもらえるなら、俺はさあ、抑えられない、なんていうか、こう無意識からあふれ出てくる衝動ってもんがあってさ、それが、最近抑制できないんだ。

 「化け物。」

 ああ、まさしく。

 でもまさか、自分の子供から、そんなこと言われるなんて、思ってもみなかったぜ。

 「桐子きりこちゃん、ごめんって。悪かったよ。」

 「…何が?パパは何も分かってないよ。」

 「おいおい、待ってくれよ。」

 と、随分馬鹿を演じているけど、これが俺、そのものだから、仕方ない。

 桐子は、俺の娘であって、俺の娘ではない。

 だって、人の命って、儚いんだぜ?俺が愛したのは、たった一人、桐子の母、弥生やよいだけだ。

 弥生は、桐子の父を失って、彷徨っていた。

 俺は、弥生がパートとして勤務しているスーパーの社員をしている、だから、出会ったんだ。

 まあ傍から見ても、あいつに仕事は、無理。だって使い物にならねえもん。本人だって、それが分かってるのに、でも桐子がいるんだし、働かなくてはいけない。

 だから俺は、そんな弥生をずっと、見ていた。

 そして、好きになってしまった。

 やっぱり、まじめだとか、色々あるけれど、俺の目にはとても、可愛かったんだ。

 「結婚してください。」

 幾度目だろうか、弥生と、桐子と一緒にご飯に出かけたり、遠出したり、とにかく一緒にいた。

 そして、俺は、弥生にそれを伝えた。

 弥生は、こくりと一つ頷いて、桐子はずっと、俺を睨んでいた。

 けど、弥生はあっさり、病気で死んじまった。元々、体が弱かった、らしい。

 そして、俺は桐子と生活することを、選んだ。

 選んだのは、本当は俺じゃなくて、桐子だ。桐子の祖母は、俺のことを嫌っていた。あんな、意味分からない奴、離れろ、と。

 だから、弥生と結婚した時も、ほぼ絶縁状態で、とにかく嫌われていた。

 が、桐子はなぜか、俺を選んだ。

 

 「お帰り。」

 「…ただいま。」

 珍しいな、と思った。

 俺は、弥生が死んでから、ちょっとどっかがおかしくなっている。だから、警察の世話になるようなことだって結構あるし、今だって外で喧嘩して、それでやっと帰ってこれたところだった。

 「何だよ、どうしたの?」

 散々、暴言は吐かれているけど、桐子は俺にとって、大事な娘だった。

 だから、もう、甘噛みですよ、とにかく、弥生に似ているし、大好きだ。

 「この前、化け物って言ったの、ごめん。」

 「…いいよ、全然、その通りじゃん。」

 俺は、ちょっと拍子抜けした。化け物なんて、こんなやさぐれ野郎、うら若き乙女からすれば、近寄りたくもないだろうに。

 「違うよ、パパ。パパはさ、分かってないよ。私は、パパのこと大事だから、だから、そんなに自分を壊さなくていいんだって。」

 「…?」

 理解できなかった、だから俺は、黙っていた。

 「パパ、ママが死んでから、自分ではわかってないでしょ?正直、変。変、いや。」

 「ごめん、ごめん。」

 でも、桐子が泣きだしたから、俺は謝った。

 「あのさ、戻って欲しいの。だからまず、気付いて欲しいの。お願い。」

 それだけ言って、桐子は部屋へと戻った。

 そして、俺は何もできずに、しばらくしてリビングへ行き、お茶を淹れ飲んだ。

 ああ、そうか。

 俺は、気付いた。

 そうだ、俺は、おかしい。

 弥生が死んでからずっと、俺は俺じゃない。

 目からうろこって、これのことか、なんて馬鹿なことばかり、考えてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

untitled @rabbit090

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る