マズい! 事件の途中だが殺人ピエロの行進だ!!
Friend
事件の始まり
「これは、単なる事故なんかじゃない」
――探偵、
彼らが呼ばれたのは、とある老人が開いたパーティー。そこに、かの有名な名探偵の血を引く歩無朗以外にも、特異な能力を持った人間たちが呼ばれていた。
魔法と見間違うような卓越した技術を持つ手品師。ステップ一つで世界を熱狂させる踊り子。現代でも解明出来ない不思議な能力と持つ超能力者。あらゆる者を魅了する歌声を持つ歌姫。一枚の絵で人間の人生すらも変えてしまう画家。何もかもが不明の謎多き仮面。
そんな一同が集ったこの屋敷で、彼らを呼んだホストであるはずの老人は自室で倒れて死んでいた。
「歩無朗くん、どういうこと?」
助手であり、歩無朗の幼馴染みである阿笠
当然だろう。どう見ても老人の死因は事故にしか見えない。落下した本。老人が血を吐き倒れ伏している現場。その久利須の疑問に同意する6人。
だが、歩無朗は迷いなく断言する。
「これは事故に見せかけた……殺人だ」
そう言って地面から拾い上げたのは、キラリと輝く透明な欠片。
一体その正体が何なのか? 久利須たちは分からない。だが、歩無朗だけはそれを見て確信している。
「死体は、一見して事故にしか見えない。俺も気付かなかったら事故だと思っていただろう。だけど……犯人は、証拠を残してしまったんだ。殺人を犯す時に、たった一つだけのミス」
「で、でも歩無朗くん。そうだとすると、この嵐で外から誰も入れないんだよ」
歩無朗は頷いた。
外は嵐。そして、この屋敷から出る事も不可能。連絡は取れない、孤立した洋館。そんな場所での殺人が行われたという宣言は一つの事実を示す事になる。
「ああ。外部犯はいない……だから、この中に犯人がいる」
超人たちが呼ばれたパーティーで起きた、老人の死。完全なる密室。
雷光が部屋を照らす。
――そう、これは陰鬱であり、陰惨であり……過去の因縁、そして、様々な悲劇を飲み込み続けてきた
「――いや、まて! マズい!」
そして、探偵の直感によって気付いた歩無朗は叫んだ。
「殺人ピエロの行進だ!!!!」
「ケーヒャヒャヒャヒャ!!!! さーて、ピエロの行進ですよぉおおおおお!!!!! さああ、パレードを彩りましょうかねぇえええええええ!!!! 貴方たちの血と臓物でねぇえええええええええ!!!!!」
壁をぶち破って、殺人ピエロの集団がパレードにやってきたのだ!
そう、説明は不要だろう。殺人ピエロは嵐の日に雷光と共にやってくる。そう、大自然のエレクトリカルパレードだ!
「キャアアアアアアア!?」
「ケヒャヒャヒャ! ピエロよりも上手に歌える観客など不要ですねぇええええええええ! 貴方の生首で鳩時計を作っちゃいますねぇえええええええええ!」
ああ、なんと哀れ! 歌姫はピエロの殺人ジャグリングによって首を飛ばされてしまう!
そう、殺人ピエロは己のエンタメを邪魔する観客を嫌うのだ! そして、自分よりも歌の上手い歌姫が狙われるのは雨が空から落ちるよりも当然の結末!
「くっ!? まさか殺人ピエロがやってくるなんて!」
「ケヒャヒャ! さあ、真っ赤な靴を履かせてあげましょうかぁあああああ! あなたの血で真っ赤に染め上げた靴をねぇええええええええ!!!!」
「ふんっ! 染め上げるのは――てめえらの血ですわぁああああ!!!!」
「グギャッ!?」
踊り子は殺人ピエロによる轢殺玉乗り攻撃をステップで回避! さらには重力を感じさせぬ足捌きによって、一人の殺人ピエロを撃退する! 踊り子の靴は殺人ピエロの血によって真っ赤に染まる!
「なんとも素敵なステップですねぇええええええええ!!!!! でもピエロの演目を邪魔するなら、容赦はしませんよぉおおおおおおおおおお!!!!」
だが、一人殺した程度では殺人ピエロの行進は止まらない! 一人のピエロを潰せば、十人のピエロが襲いかかってくるのは常識であろう!
「あぐっ、まさか、私の苦手な空中に――」
「ダンスは上等なようですが、空中ブランコはどうですかねぇえええええええ!?」
「ウギャーーーー!」
なんと、ピエロによって空中に放り投げられた踊り子は空中のピエロたちによってバラバラにされてしまう!
流石の地上戦においては敵無き踊り子といえど、空中戦においては不利! これぞ殺人ピエロの十八番である殺人空中殺法ブランコ! 空から降り注ぐ血の雨はまるで踊り子の慟哭だ!
「歩無朗くん! 大丈夫!?」
新たなる犠牲者を求めて襲いかかる殺人ピエロの群れに、久利須は探偵撃退術の一つであるバリツ制空拳を使い身を守る! あらゆる殺意を無意識に読み取り、それを受け流す奥義の一つだ!
「ゲヒッ!?」
「グギャッ!?」
そしてバリツ制空拳は攻防一体の構え! 受け流した攻撃は勢いのままに、仲間である殺人ピエロへと受け流され同士討ちになっていく!
当然ながら、名探偵である歩無朗とツーマンセルを組む久利須も名助手。そして、名助手ともなれば探偵術は一流である! 二流であれば身を守るのが精一杯であろう! だが、一流の探偵術ともなれば攻撃は防御となり、防御は攻撃となる!
「ああ、俺は大丈夫だ! だけど、容疑者だった彼らは殺人ピエロとは相性が悪い! ちっ、せめて物理タイプの使い手がもうちょっといれば生存率は上がったんだが――!」
殺人ピエロは魔法耐性、状態異常無効! サーカスにトリッキーな攻撃などは無効なのだ!
すでに、超能力者も死んでいる! 隣室にまで届く人間の臓器を破壊して殺害出来るような強力な念動力も殺人ピエロには全くの無意味! 念動力による攻撃は我々の演目以下だと言わんばかりに一輪車によって轢殺され奇怪なオブジェとして壁の染みになってしまった!
手品師の技術も、ピエロにとっては児戯! 殺人ピエロたちの技術は殺人パレードによって鍛え上げられた神業! 手品師が咄嗟に仕掛けたピエロ殺人トラップなど子供の作ったレゴブロックも同然に解体! 逆に解体された殺人トラップを駆使されて手品師も血しぶきに変えられていく!
「グオオオオオ!!!」
「ひぎゃあああああ!?」
「仮面の人!」
「歩無朗くん! 今はダメ! 殺人ピエロのペットの殺人アルマジロよ!」
ああ、なんたることか! この館……そして老人の様々な事情を知っていたであろう仮面男はパレードの猛獣である殺人アルマジロの餌となっていた!!
「くっ……油断してた。ただのパーティーだと思って物理無効のアルマジロ対策はしてない……!」
そう、物理攻撃に耐性を持たない殺人ピエロたちは物理に強いペットを使うのは常識! 物理無効対策をしてなければ、殺人アルマジロを倒す事は不可能!
殺人アルマジロに食われる仮面出てきた表情は絶望! 顔が老人が似ている事などこの場においては無意味! 飲み込まれて殺人アルマジロの餌と消えていく!
「ヒヒヒヒヒ! こ、これだ! これが芸術だぁ!」
「ケヒャヒャー!! さあ、新たなメンバーの門出ですよぉおおおおおおおおお!」
ああ、哀れ! 画家は殺人ピエロのパレードに取り込まれ、残虐な絵を描くだけの肉人形へと変貌してしまった! いや、彼の顔は徐々にピエロの白塗りへと変貌していく!
そう、殺人ピエロは仲間を増やす! 画家は己の能力を十全に使い、三回見たら死ぬのではなく一度見たら三回死ぬ絵を描こうとしている!
「歩無朗くん! 画家さんが殺人ピエロになっちゃったわ! 早くしないと!」
「ちっ、南無三!」
「ケヒャっ!?」
その観察力によって、的確な指示を飛ばす久利須に従う歩無朗!
探偵殺人術による銀の弾丸によって、取り込まれた画家と彼を守ろうとした殺人ピエロたちを射殺していく! そう、殺人ピエロたちに銀の弾丸は特攻! たった一発でも致命傷となるのだ!
「ちっ、まだ嵐は終わらないようだな……」
殺人ピエロのパレードは嵐が収まるまでは止まらない! そして発生した殺人パレードを止めなければ、殺人ピエロたちは街まで殺戮パレードを繰り広げるであろう!
「大丈夫、弾は持ってきてるわ! こんなこともあろうかと、食料だってあるから二日でも三日でも大丈夫よ!」
「ああ、ありがとうな久利須。頼りになるよ」
――読者諸君には安心してほしい! 探偵式戦闘術によって長時間のピエロたちとの激闘に耐えきれる彼らは殺人ピエロのスペシャリスト!
探偵がいれば殺人ピエロは街までやってくることはないだろう! 名探偵の運命力によって出現場所を制御された殺人ピエロたちはこうして水際で食い止められているのだ!
そして、歩無朗たちの激闘は長い嵐が終わるまで続いた――。
――嵐が開けて、晴れた空が覗く頃。
歩無朗と久利須は生き延びた。殺人ピエロたちは嵐が終われば夢が覚めるかのように灰になって消滅していく。
「……はぁ、はぁ。ああ、疲れた……歩無朗くん、お疲れ様」
「お疲れ、久利須。全く……殺人ピエロの奴ら、全てをおじゃんにしやがって」
「んん……! 帰ったらシャワー浴びたーい!」
殺人ピエロたちのパレード被害を受けた現場は原形を留めていない。
それも当然だ。殺人ピエロは自然災害。地震雷火事殺人ピエロと言われる恐ろしき存在なのだ。
彼らが通れば現場保全など不可能。殺された老人も、もはや原形すら留めずに大地に帰ってしまった。
「――これで事件解決ってわけだ。殺人ピエロ案件になっちゃったのは残念だけどさ……でも、久利須が無事で良かったよ」
「えへへ、ありがとう。歩無朗くんも無事でよかった」
彼らは名探偵。そしてその助手。つまりは殺人ピエロに何度も襲われる運命を背負っている。
探偵の死亡原因の9割は殺人パレードによる死亡だ。生き延びたことは幸運であり、名探偵の条件なのだ。
「これからも、よろしくな。久利須」
「うん、こちらこそ」
久利須は同意して笑顔を見せる。そう、まだまだ続いていく彼らの運命。だが、名探偵である歩無朗は戦い続け生き延び続けるだろう。なぜならそれが――名探偵なのだから。
そして歩無朗は息を吐いて、久利須に問いかけた。
「――殺人ピエロって何?」
「なんなんだろうね」
マズい! 事件の途中だが殺人ピエロの行進だ!! Friend @Friend
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます