社畜、二度目の冥層主を殺る 後編
俺は躊躇無く冥層主の部屋に入っていき、辺りを見回した。
壁から天井にまで際限なく生えている蔦、所々欠けている立派な支柱……冥層主がいると言われれば、まぁ相応しいのではないだろうか?でも正直ボロっちいが。
「て言うか……冥層主は何やってんだ?」
鉄扉を蹴飛ばした時に聞こえた悲鳴を思い出すが、流石にそんなはずないだろうと自分で否定する。冥層主はそのダンジョンの中で頂点に位置するモンスターなのだ。そう簡単にはやられないはずだ。
………
しばらく待ってみるも物音一つせず、ただ俺の息遣いだけしか聞こえなかった。
モンスターのことを心配することはおかしいが、一応鉄扉の裏を確認してみることにする。
真ん中部分から折れ曲がった鉄扉を端へ投げ捨て、死体がないか探してみるが……あったのは僅かな血痕と、鱗のみだった。
俺は何故ここに鱗が?と疑問に思いながらも拾い上げ、観察してみる。触った感じはツルツルして自分の顔が反射するほどに磨かれていた。折ってみようとしてもかなり硬い。鱗を空中に投げ、取り出した短剣で斬ってみるも傷一つつかなかった。
「硬った……これぐらい硬い鱗を持つのはやっぱり冥層主ぐらいしか…でもその肝心な冥層主が居ないしなぁ」
再び地面に落ちた鱗を手に取り、先程よりも注意深く観察してみる。すると鱗に魔力の流された跡があることに気が付いた。
……まさか、な。
そう思いながら、俺は鱗に魔力を流してみると……持っていたはずの鱗がその場から消えた。しかし見えはしないが、確かにそこには目に見えていないはずの鱗を持っているという感覚はあった。
「これは……ステルスか?」
ステルス……自らを相手から見えなくさせる能力だ。基本的にゴースト系と同じ類で、目に見えはしなくとも魔力の揺らぎで認識することが出来る。
恐らく冥層主は今まさにこの層主部屋の何処かに潜んでいるのだろう。
鱗をアイテムボックスに仕舞い、僅かな魔力の揺らぎも見逃さないように層主部屋を隅々まで見渡していく。
……居た。丁度俺の真上に居り、奇襲する隙を狙っていたようだ。魔力の揺らぎから確認できるフォルムは……爬虫類と言ったところだろうか。それも10mはある巨大な
あいつが気付かれていないと思ってる間にこっちから仕掛けてもいいんだけど……それだとリハビリの意味がなぁ……よしっ、俺のリハビリを完了させるためにもあえて隙を見せてやるか!
俺はアビリティボックスへ少しだけ仕舞い、ゆったりと部屋を出ていく動作に入る。背中を無防備にさらけ出しながら、扉の無い入口へ向かっていくと……後ろから地面を強く蹴ったような音が鳴り、咆哮を上げながら襲いかかって来る気配がした。
そう来なくっちゃな……!
俺はワクワクしながら振り向き、相手の姿を確認した。古臭い部屋には不似合いの純白な鱗に、首から棘のようなものが生えており、俺を喰らわんとばかりに飛び掛ってきた。
「っしゃあ……!こい!」
突っ込んできた蜥蜴を受け止められるように低い姿勢を取る。想定通り俺の胸に久方に会った恋人のように突進してきた蜥蜴の鱗を掴み、そのまま壁へ投げつけた。
大したダメージにはならないが、自分の筋力が落ちていないことは確認出来たため良しとしよう。
むくりと蜥蜴は起き上がり、俺を縦型の瞳孔が宿った眼で見つめてきた。まるでロックオンするように……10秒程見つめられた俺は、蜥蜴の首周りにあった棘が震えていることに気付いた。
……いやいやいや。そんなことできる訳が…
そう思っていた時期が俺にもありました。
蜥蜴が首を振るうと、棘が噴出された。勢いよく噴出された棘は俺目掛けて飛んできた。横に回避するが、俺がいた場所を通り過ぎた棘は旋回し再び飛んできた。
「追尾かよ!」
いくら避けても追尾してくるところ、どうやら標的に当たるまで追ってくるみたいだ。
蜥蜴の方を見てみるが、馬鹿な蠱毒ダンジョンの冥層主とは違って棘の再装填をしていた。
いつまで避けていてもキリがないので、未だに追ってきている棘を左手で鷲掴みにする。掴めると分かり、一息吐いたのも束の間……棘から新しい棘が枝分かれするように突出した。
棘は手のひらを突き破り、手の甲から見えるほどにまで伸びていた。
引き抜こうにも、先の方には返しがついており抜くに抜けなかった。
手を切断して九割を引き出し再生させる手段もあるが……リハビリに来たのに悪化はさせたくない。
「……仕方ないな。使ってみるか、あれ」
俺は他の棘を避けながら、右手でアイテムボックスの中から一本の短剣を取り出した。これは蠱毒ダンジョンの冥層攻略報酬……『
俺は試しに八天蓋へ魔力を込めてみる。すると頭上に糸のようなものが八つに広がり始め、俺を護るように糸が垂らされた。
ここまで見てみるがいまいち効果はどんなものなのかが分からず、考えていると……蜥蜴が二回目の棘を噴出した。
向かってくる棘に反応するように……垂らされた糸が分離し、棘の方に向かって掴んだ。
なるほど……どうやら効果は自動防御のようだ。攻撃に転用出来るのかは分からないが、今俺が持っている短剣の中での防御面はトップクラスだな。
蜥蜴は棘を掴んだ糸を警戒しながら、威嚇してくる。
俺は八天蓋を蜥蜴に向け、命令してみた。
「八天蓋、殺れ」
そう命令すると、頭上にあった八角形の糸が震えだし……生えてくるように出てきた糸が針のように捻れた。まるであのバカ蜘蛛がやった捻られた糸は雨のように、蜥蜴に降った。
短剣で傷一つさえつかなかった鱗いとも容易く貫通し、蜥蜴逃げることも出来ずに地面に串刺しにされた。
うわぁ…えげつねぇな。ここまで強いとは。流石は冥層攻略報酬言ったところか?
まぁ、これでリハビリ兼二度目の冥層主討伐は完了だな。
俺は蜥蜴死体をアイテムボックスに仕舞い、新沙の待っている外に歩いていった。
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えちょまです。
新作書くの楽しいけど荷物持ちお兄さん越えられるか心配。
それじゃ
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