社畜、伝説に再認定される 前編
ダンジョン。それは摩訶不思議な生物、モンスターを生み出す場所。そして世界中の経済を回している危険な所でもある。
入って罠に掛かることも多々あるし、入った瞬間腕が飛んでいくこともあるだろう。
俺は地面に転がっている自分の左腕と途中から失くなっている左腕を交互に見つめる。
「腕が飛ぶことってよくありますよね」
《あるわけねぇだろ》
《あってたまるか》
《ちょっと何言ってるか分からないです》
《罠はよくあるけど腕が飛ぶことはないですねぇ…》
《痛たくないのかよ…》
「痛み…慣れましたね。昔は普通に四肢切断とかやられましたし、それにこれぐらい──」
俺はアビリティボックスを開き、九割を引き出すと途端に腕が生えた。
血管や骨から再構成されるのがよっぽどグロテスクだったのかコメント欄は阿鼻叫喚状態になっている。
これまで言ってはいなかったが、実はアビリティボックスには段階がある。
一から三割はいつものステータス。四から六割は最深層主とやり合えるステータスで、七から八割は最深層主を片手間で片付けられるレベルだ。
しかしそれ以上となってくると、今までの比ではない。九割……元のステータスがとてつもなく低いジョブである荷物持ちには負荷がデカすぎるステータスとなっているため、あまり引き出すことは無い。あったとしても先程言ったように四肢が欠損した場合か、致命傷を受けた時だけだ。
十割は、普通に全細胞が悲鳴を上げるので一度しか使ったことがない。
左腕が完全に再生し、手を握ったり開いたりする。
感覚は戻ってる…大丈夫そうだな。服は破けたけど……また用意してもらえるだろか?
まぁ今はそんなこと気にしてる場合じゃないな。
腕が切断される前に見えた鎌のように鋭かった虫の触覚らしきもの。
恐らくその触覚の主がここの層主で間違いなだろう。
しかし、六割の俺の腕を綺麗に切断出来るモンスターなど早々居ないはずなのだが……それだけで層主の強さが分かる。
入る前の評価は過小評価だったな……ここの層主は武蔵が100体居ても勝てない怪物みたいだ。
「それよりも……今のは何処からの攻撃だ?目の前に触覚が見えたは良いが場所が分からないな」
《見えてたのかよw》
《ワイらにはただダンジョン入った瞬間腕が飛んだだけにしか見えなかった》
《スローにしても見えないんやが…》
《いや俺が持ってるツールで確認したらほんの少しだけ映ってたで》
《やばいねぇ》
《それが見えた高橋も大概やばいねぇ》
……見えたものはしょうがないだろ。
コメント欄は俺に対して失礼すぎるコメントで溢れかえっているが、気にしていてもどうにもならないため層主をさっさと見つけることにする。
ダンジョンの入口から想像出来るように、ダンジョン内はジャングルのような地形だった。
辺り一帯を見回すが……不気味なほど静かだ。ダンジョンは何処の階層にもモンスターが湧くため、必ず何かしらの音がするのだが…ここでは微塵たりとも感じられない。
だが濃密な魔力痕だけは漂っている。魔力痕とはそこに居たモンスターが保有している魔力が残っている残滓のことを言う。
……これは普通のモンスターには無い魔力量だ。城崖ダンジョンと同様に最深層が層主のみの階層となっている可能性が高いな。
層主部屋を探す手間が省けて楽だが、その分層主も強力だから結構だるい。この規模の層主なら九割状態で戦わなければ厳しそうだ。
ここに留まっていても層主からこちらへ来てくれる訳でも無いので、辺りに漂っている魔力の中で特に濃く残っている魔力を道標にして向かっていく。
*****
数分ほど魔力を辿り続け、これまでにない濃く残っている魔力痕を見つけた。
しかしそこに何かがある訳でもない。
魔力痕に近寄ってみると、足元に違和感を感じた。
足に何か異常があるのかと思ったが…おかしかったのは地面の方だ。
見た目は周りと一緒だが、ここだけ少し柔らかい。
俺はもしかしてと思い、地面を踏み鳴らすと……地面が揺れ始めた。
それと同時に鼓膜を突き破りそうな程の咆哮がダンジョン内に響き渡った。
そして遂に…俺の腕を切り落とし、このダンジョンの最深層主である怪物が姿を地面から現した。
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えちょまです。
更新は2日に1回か不定期更新にしようかな。
それじゃ
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