勇者の帰還
月夜アカツキ
祝宴
この世界に勇者として召喚されて数年がたった。
思い返せばいろいろなことがあったな。
召喚されて「お前は勇者として魔王を討伐しこの世界をすくのだ」って言われた日、王様に「ふざけるな」と突っかかったら危うく処刑されかかったっけ。あの時は聖女さんが止めてくれなかったら本当に死んでいたかもな。
聖女さんが紹介してくれたパーティーメンバーと初めて旅立った日。最初は意見が食い違ってたびたび言い争いになることもあったけど、いつの間にか言い争うことは少なくなって笑いの絶えない旅だった。
そしてつい数か月前、いよいよ魔王を討伐することができた。
「ちょっとスバル!何こんなところで呆けているのよ!」
金髪の髪を長く伸ばしたちょっと気の強そうな顔をした女の子が離れたところからそういって近づいてきた。
同じパーティーの魔法使い、ライラだ。
「そうだぞ!せっかくの祝宴なんだから楽しまないと!」
今度は短く切りそろえられた赤毛でいかにも好青年といった雰囲気の青年がやってきた。
同じくパーティーの僧侶、ドラドだ。
二人は舞踏会のような服を着ており、その手にはたくさんのごちそうが乗ったお皿を持っている。
今日は僕たちが魔王を討伐したことを祝う祝宴がお城で開かれている。
僕はちょっと夜風を浴びたくてお城のバルコニーに出ていた。
「いや、ちょっとこれまでの旅路を思い返していただけだよ」
「たしかにいろんなことがあったもんな」
ドラドが僕の右側にやってきた
「そうだね。わたしたちの誰か一人でもかけていたらこうして生きて帰ってくることはできなかったと思う」
ライラは僕の左側によって来た。
僕たちはそろって空を見上げた。
空には満天の星空が広がっている。
この美しい世界はこれからもっと発展していくのだろう。
「本当に、二人のおかげでここまでこれた。ありがとう」
「礼を言うのはわたしたちのほうよ」
「そのとおりだな。なにせスバルは自分の世界ではないこの世界のために命がけで戦ってくれたんだ。感謝してもしきれない」
「いいって。僕だって二人に助けられてばかりだったし」
そこまでいって静かな沈黙が流れた。
「そういえば、ライラとドラドはこれからどうするの?」
「うーん。わたしは王様からもらった報奨金で世界を回ろうと思ってる。魔王が討伐されたとはいえまだまだ争いの傷跡は各地にあるからね」
ライラらしいな。彼女は旅の途中でもどんなひとでも助けを求められたら助けに行っていた。そのせいで遠回りすることは多かったけど、そのおかげでより多くの人の日常を取り戻すことができた。
「俺は後続の育成に力を入れようと思っている。実は中央教会から指導者をやってくれないかと頼まれていてな。受け入れようと思っているんだ」
ドラドは面倒見がいいからな。それに回復ができる僧侶が育成されれば人々の暮らしはより豊かなものになるだろう。
「いいな。二人ならできるさ!」
ふいにライラとドラドが静かになった。
「なあ、スバルはどうしても元の世界に帰るのか?」
やっぱりそのことか。
「うん、帰るよ」
「どうして!一緒にこの世界に残ればいいじゃん!」
そういうライラの目には涙が浮かんでいる。見るとドラドも悲しげな顔をしている。
「前にも言ったように、向こうに残してきた人がたくさんいるからね。心配をかけるわけにはいかないよ」
「でも!」
しかしライラが次の言葉を言う前にドラドがライラの肩に手を置いて首を横に振った。
「これはスバルが自分で決めたことなんだ。俺たちにとやかく言う権利はない」
「ドラドは悲しくないの⁉大切な仲間なんだよ!」
「大切な仲間だからこそ、その考えは尊重したい。それにしってるだろ、スバルのために聖女さんが帰還の魔法を開発したのを」
ライラはまだ言いたいことはあるようだったがしぶしぶ受け入れてくれたようだった。
「さ!仕切り直して楽しもうぜ!主役がいないと何のための祝宴だよって話だからな!」
ドラドはいつもこうして僕たちを引っ張ってくれる。
僕たちは再び中に戻ると、最後の一夜を寝落ちするまで笑って話して過ごした。
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