第11話 嘘つきだから無神経を演じる女◇サクラ◇
なかなか眠れなかったけど、6月13日木曜日の朝になっていた。
私の誕生日、そしてリュウの最愛の彼女・冬美さんの命日だ。
私が勝手にライバル視していた冬美さんは、もう1年も前に亡くなっていた。
私の嘘コクなんて、リュウからしたら取るに足らない出来事だったんだ。
私、辛くてたまらないリュウに、なんてことしたんだろう。
昨日、私を心配して来てくれたメグミとアンリは、リュウに謝りに行くって言ってくれた。
「リュウがやめてくれって。罰ゲームの話を蒸し返したら、せっかくのクラスで作った人間関係が壊れるってさ」
「けど、リュウにばれてたんなら・・」
「リュウが、私達3人もいてくれて4人だから、クラスのみんなとの輪も保たれてる。だからこのままにしようって・・」
「そんな、こっちに都合がいいお願い・・」
「・・リュウって徹底的に優しいんだね」
結局、リュウをどこかに招待して、そのときに謝罪だけはしようってなった。
◆◆
今日は木曜日。ぼーっとしながら学校に行った。
私はリュウとこのままの関係でいていいんだろうか、それとも離れるべきなんだろうか。
色々と考えても、分かってることはひとつだけ。
私はリュウが好きになってる。
好きにさせられて捨てられる『ざまぁ』展開なら、リュウの大勝利だったんだけどね。自嘲気味にアンリとメグミに言った。
2人とも苦笑いしてた。
傷つけようとした私の今後のことまで考えてくれる。
何かを頑張れるように勉強を教えてくれた。
一緒に遊園地にも行った。
海辺も歩いた。
水族館にも行った。
2人きりの時間に、人に話してないことまでいっぱい喋った。
いつもニコニコしてくれていた。
私が不安にならないように、嘘コクした日から常に次の約束をしてくれた。
そうだ約束だ。
え・・・約束?
13日から先、何も約束なんてしていない。
私の顔は今、青ざめているだろう。
リュウが私に見切りをつけて冬美さんの命日で私を切る。そのために約束してない?
悲しいけれど、それなら構わない。
青ざめた理由はそっちじゃない。怖い可能性が頭をよぎった。
前に学校で盗み聞きしたリュウのセリフが頭の中でリフレインする。
『冬美のとこいくよ』
ねえリュウ、『行く』だよね。まさか『逝く』とかじゃないよね。
3時間目が終わったころ、いても立ってもいられなくなった。
◆◆◆
具合が悪いって言って、そのまま学校を出た。
すでに午前11時を過ぎてる。
日差しは強いけど、駅に走った。
リュウが冬美さんの墓参りに行ったお寺は、岬の先の方にある。
確かお寺の先には草地、まばらな松林、そして崖から海。行ったことある子に教えてもらった。
考えすぎかもしれない。だけど、後悔したくない。
リュウの友人のマキに、きちんと聞かなかった。そして勝手に知ったかぶりしてた。
素直に聞いてたら、リュウの本当の悲しみをもっと早く知ることができた。
今、すごく悔やんでる。
きっと今日、リュウは墓参りが終われば帰ってくる。
普通は帰ってくる。
ただ不安ばかりが大きくなっている。
この1ヶ月間、リュウと誰よりも親密にしてたのは私だ。
冬美さんと食べたかったパンケーキ。
冬美さんと乗りたかった観覧車。
冬美さんと歩きたかった海岸線。
冬美さんと一緒に行きたかった水族館。
やり切ったんだ。
そして私の誕生日が今日6月13日と言ったとき、つまり冬美さんの命日と言ったときのリュウの目。
暗かった。
私は自分本意になっていて、誕生日を祝うのが嫌なのかと落ち込んだ。
そんなレベルじゃないんだ。リュウの6月13日は絶望の日なんだ。
◆
電話した。コール音は鳴っている。
けれどリュウが出てくれない。
3回目。やっぱり出ない。
お寺の最寄駅に着いた。海側に進む一本道を急いだ。
5分も進むと分かれ道。右がお寺だけど、私は登り道を直進した。
いきなり開けた場所は、起伏がある草地と、その向こう側が崖と海。
強い風の音が聞こえている。
草むらの中に人影を見付けた。
たった1ヶ月でも好きになった人の背中。崖の方に向かって歩いている。
「リュウ!」
彼は振り向いた。「あれ?秋庭さん・・」
私は本当は飛び付きたいけど、ゆっくり近付いて手をつかんだ。
無理やりに笑った。
「リュウ、私も学校サボったよ」
「・・あれ、今って授業中じゃないの。どうしたの」
「私も冬美さんに挨拶しようかなって」
「・・挨拶」
私は、必死な気持ちを隠して軽い口調で言った。
「そういうこと。嘘コクで仮でも、今カノだしね」
「アレ、まだ続いてるんだ・・・」
少しだけ笑ってくれた。
「そうだよ、私の罰ゲーム続いてるの。メグミとアンリから指令。今日中にリュウとコンビニケーキ食べてるとこ写メして送ってこいって言われたんだ」
馬鹿と思われてもいい。リュウが私と帰ってくれたらいい。崖に向かわなければいい。
「・・・秋庭さん」
「ん?リュウ、どうしたの」
「秋庭さんは、俺がいた方がいい?」
「リュウがいないと悲しい」
涙をこらえて答えた。
「なんで・・」
「もう私、リュウがいないと高校がつまんない。進学もしたいから、勉強教えてよ」
そしたらリュウの中で何かが緩んだ気がした。
「ほら、帰るよ。コンビニ付き合ってよね」
「・・うん」
リュウは私を連れて、2度目のお参りをした。
そして一緒に帰った。
私はリュウと分かれたあと、安心したら泣いてしまった。
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