都会の星空

『まもなく発車いたします。無理なご乗車はおやめください』

 ホームに響くそんな声なんか知ったこっちゃないといわんばかりに、満員な車内に無理やりひとり、ふたりと入ってくる。

 中にはすでに乗っている人を無理やり押し込んで入ろうとする人までいる。

 そうして、明らかに許容量を超えた電車はゆったりと出発する。

 小さな駅にとまるとほとんどの人が降りようとせず、降りる人の「すみません。降ります!」という声でわずかながらの隙間が生まれる。

 逆に乗り換えができるような大きな駅にとまると、人が雪崩のように降りていく。

 すっかり人がいなくなった電車は心なしか体が軽くなったかのように軽快に走る。

 人が減り、空いた座席に私は座る。

 ガタンゴトンガタンゴトン

 誰かが降りて、また誰かが乗ってくる。

 減っては増え、減っては増え。その繰り返し。

 私は座席に座り、スマホを眺めながらたまにその様子を見る。

 ガタンゴトンガタンゴトン

 いつのまにか日はすっかり傾いてしまった。

 だというのに窓の外は建物の灯りでまだまだ明るい。

 まるでこれからが本番と言わんばかりに活気に溢れている。

 こんな光景、地元ではみなかったな。

 思い出の中の高校から帰り道でいつもみていたのは、静まり返った夜の街。

 たまに誰かの家のあかりが見えたけどそれでもここまでではなかった。

 その代わりに空には満天の星空が広がっていてた。

 でも、それだけだった。

 それがとても退屈に見え、いつか都会に出てやると心に決めた。

 そしていま目の前には都会の街並みが広がっている。

 夢にまでみた憧れの都会の街。

 だというのになぜだろう。

 胸にはわずかな寂しさが込み上げる。

 ガタンゴトンガタンゴトン

『まもなく停車いたします』

 いつのまにか私の降りる駅まできていたようだ。

 スマホをバックの中に入れ、座席を立ってドアの前に来る。

 キーーー

 電車が止まる。

 私以外にも数人が降りる。

 急ぎ足の人が横を駆け下りていくのを見ながら、私は立ち止まってエスカレーターで降りる。

 改札を出る。

 空は地元と違い、満点の星空ではない。

 だけどかわりに目の前に広がる建物の明かりがまるで星空のようにきらきらと光っている。

 都会は昔の私が思い描いていたものとは違うかもしれない。

 それでも私はこの街で生きていく。

 さて、家に帰ろう。

 私は都会の星空に足を踏み出した。

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単話完結集 月夜アカツキ @akatsuki0707

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