第26話「ないない」
盗む金がない。要するに、弟の手持ちの金がないのである。
宇津見撫子は、困っていた。
しかし、キャリア決済の七万円の引き落とし日は、明日である。
このままでは、また限度額が減らされてしまう。
一旦、現実逃避のために、漫画アプリで毎日配布される無料ポイントで、闇金ウシジマくんを読んだ。
そして撫子は、カードローンを使うことに決める。
闇金じゃなきゃ大丈夫でしょ!
撫子は、キャリア決済分とクレジットカードの引き落とし分の金、合計十万円を借りた。
これで、当分はなんとかなる。
弟の財布から盗んだ一万円で新発売のアイスクリームと砂肝とピスタチオホワイトショコララテのスティックを買い、撫子は一息ついた。
一月は、もうすぐ終わる。
小説の勉強や資料などにするために、日本現代怪異事典、日本現代怪異事典 副読本、続・日本現代怪異事典、図説 日本呪術全書、現代民俗学入門、遠野物語、書くことについて、こころをよむ 人形は人間のなんなんだ?、こどもふざけ方教室、深海問答、すごい毒の生きもの図鑑を買って並べた画像をTwitterに上げたら、いいねがたくさんついた。
誰に評価されなくとも、撫子は自分が面白いと思ったものを書き続けている。
それはそれとして、金やちやほやや不老不死は欲しいが。
一月末。積ん読していた本を読み、家事をし、配信をし、作詞の依頼をこなし、小説を書く。
自分の“偉さ”に百点をつけ、撫子は、ご褒美に美味しいものを食べた。
再三述べているが、彼女には罪悪感がない。
コンビニで買った「雪グミ」なるものを食べていると、森野ユウからメッセージが届く。
『よう』
『なにしてる?』
『グミ食べてる』
『ヒマだから、遊びに行く』
『オッケー』
ユウは、すぐに宇津見家に来た。用事で近くにいたらしい。
「ユウちゃん、ちいかわのアニメ見ない?」
「あー。まあ、いいけど」
「よっしゃ!」
撫子は、ブルーレイをセットし、再生した。
二巻まで一気に見せたところ、ユウは、ラッコが気に入ったようである。
「撫子って、モモンガみたいだよな」
「可愛いってこと?」
「ははは。抜かせ」
けらけら笑う撫子。
邪悪なところが似ているのだ。
その後。撫子は、ちいかわのグッズの通販競争や配布物の入手困難さなどを熱心に語った。
このカスの田舎でさえ、そんなことが起きていたとは、ユウは露ほども知らなかったので驚く。
撫子の推しのハチワレなどは、秒で売り切れや在庫なしになる。そして、バーチャル闇市で高額転売されるのが常だ。
「そういうの、いいシノギなのかもな」
「最悪~!」
撫子は、憤慨している。
その頃、宇津見緑は、勤め先の病院で余り物のフロランタンをむしゃむしゃ食べていた。そのことを以前撫子に言ったら、「私も食べたい!」と理不尽に怒られたので、持って帰ってやるつもりである。
夜。撫子は、フロランタンを食べながら、弟は、“いい奴”だなぁと思った。
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