ついて行く

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　妻が物件を見に行くのでついてきた。

　三回目の内見だ。

　同じ場所を三回目。

　海の見える場所にある、マンションの最上階。

　子ども二人と一緒に住んでも、十分広い。

　そして、見晴らしが良い。

　海の見える場所に住むのが、妻の憧れだった。

　迷わなくても、買えるお金は十分ある。

　迷う必要は無い。

　悩んでいる理由はなんだろう？

　どうやら今の家を離れるのが引っかかるらしい。

　何度も見に行っては、あそこがダメだ、ここがダメだって、文句ばかり。

　そのくせ、気になってまた見に来てしまう。

　優柔不断な性格は昔からだ。

　本当は、もう決めてしまっている。

　ここに住みたいんだ。

　だが理性がそれを邪魔している。

　今住んでいる家に悪い所が無いからな。

　思い出もある。

　結婚を決めた時にローンを組んで買った家だ。

　敷地も広く、庭もある。

　車は三台停める事が出来る。

　スーパーやショッピングモールも近い。

　周りの住民も良い人ばかりだ。

　確かに引っ越す理由が無い。

　理屈では。

　問題なのは、思い出だ。

　四人で暮らした、思い出。

　庭でバーベキューとかやったしな。

　って言うか、俺の部屋がそのままだわ。

　一切整理されていない。

　そろそろ処分してくれて良いんだよ。

　何年放置するんだか。

　俺の事は忘れて良いんだよ。

　俺の意識も、最近は途切れ途切れだ。

　俺の事を思い出すから、俺も離れられない。

「ここはどう？」

「気に入った？」

　ああ、俺は好きだよ。

「どうせ適当な事言って、一切反対しないのよね」

　そうだな。

「ここに決めて良い？」

　良いに決まっている。

「成仏しちゃ、ダメよ？」

　え？

　なんで？

「先に死んだんだから」

　俺が傍にいるってわかってたのか。

　相変わらず、勘が良い。

　仕方ない。

　じゃー、ずっと見守っているよ。

　妻は部屋を後にする。

　不動産屋に買う返事をするらしい。

　俺の事を忘れる気は無いのか。

　俺を忘れる為に引っ越すのかと思った。

　違うのか。

　成仏するのは、もっとずっと先らしい。

　いつになるやら。

　後で妻にメール送ろう。

　驚くだろうなー。